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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layered Construction

 各話を見直して行けば思い出す事もあるのだろうが、オンエアのどれくらい前にシナリオを書いていたかという感覚が思い出せない。

 この頃の1クール深夜アニメは、作画イン時に全話のシナリオが上がっている――という前提ではなかったと思う。
 製作の円滑さを考えるまでもなく、脚本は全部先に上げておくのが望ましいのは判っているのだが、特に原作となる物語のないオリジナル作品なら、どういう演出をされ、どう画面設計がなされ、如何にキャラクターが芝居をするかを知ってからフィードバックさせないと、私の創作性は萎んでしまう。

 13話構成を最初にシリーズ構成として書いた文書はもう手元にないのだが、サブタイトルと三行程度の概要を記した程度に過ぎず、中盤からは全くそれとは乖離したものになっていった。
 

 私が記憶する限り、シナリオ執筆は大きく2期に分かれ、最初の5話までと、それ以降となる。3話を上げる辺りで中村隆太郎監督が参加する事になって、そこからはなるべく監督の意向を聞きながら進めようとした。しかし隆太郎さんは「こうして欲しい」といった事を言葉では言わない監督だった(酒が入ると出てくるという事を後で知る)。

 5話当たりのシナリオを書いた辺りで、岸田隆宏さんのキャラクター・ラフが上がり始め、隆太郎さんによる1話のコンテが上がって、これを見て上田Pと私は畏怖して、芸術面の全てを隆太郎さんにお願いする事になる。
 ともあれ1話のコンテを見た時の昂奮は今も思い出す。
「すげえ」
 そうとしか言えなかった。


 ミステリ的スリラーのテイストではあるものの、特段謎解きを明確に構築する気はさらさらなく、特に最初の5話まではネットワーク、「lain」ではWiredがリアル・ワールドに重なる事で生じる奇怪な事象をオムニバス的に採り上げ、ヒロイン玲音の変化をじわじわと進めていくという構成にしていた。

 

 各話のナンバリングを「Layer:xx」としたのは、勿論ネットワークの基礎概念、OSI参照モデルが想定の中にあった。物事を識ろうとすると、階層毎に別なものが見えてくる――というニュアンスで、つまり前話と全く異なる結論になる様な矛盾すらも有り得るものと思っていた。
 
 ただ、この「レイヤー」という捉え方は、もっと体感的なスタッフの共有観念でもあった。
 この頃の安倍吉俊君は、彩色作品はPainterで作業していたが、Photoshopも併用して自在に使いこなしていた。
 Adobe PhotoshopはVersion.3.0からレイヤー機能を実装しており、下のレイヤーに影響を及ぼさずにレイヤーを積み上げて加工をしていく事が可能になっていた。
 

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 中村隆太郎監督もPhotoshopは使いこなしており、シリーズ製作の終盤までも自ら背景画をPhotoshopで加工していた。

 だから、「lain」のサブタイトルがそれぞれ「Layer」だという考え方は、早い段階でスタッフ間に共有されていたのだった。


 ゲーム版のディレクター二人の内の中原順志君が、NAVIのインターフェイス画面を自ら製作するという泥沼に引きずり降ろす事に成功し、私はAfter Effectsの使い方を彼から教わった(のだけど、どの段階でだったのかが思い出せず)。

 動画版PhotoshopであるAfter Effectsは、いとも簡単に膨大なレイヤーが出来上がってしまう。
 中原君は「だからこうすんだよ」と、ネスト化する(フォルダに収めていく)という(まあ今は普通なテクニックだろうが)目から鱗な技を教えてくれたのだった。

 当時の我々にとって、物事をレイヤー階層として見るというのは実に斬新な考え方だったのだ。