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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:01 Weird - Hello NAVI

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 シナリオ本が手元にあったら当該箇所を読んで比べて欲しいのだが、玲音が「千砂ちゃんからのメール」が心の中で大きなものになって、どうしても確かめたくなって初めて子ども用NAVIを起動するまでの流れを、シナリオではあっさりと書いていた。

 中村隆太郎監督のコンテで、そこに至るまでの流れは極めて濃厚な「溜め」を作られている。テレビアニメなら短いカットを重ねていくところを、劇場アニメの如く長いカットで描かれており、このシークェンスは1話、いやシリーズ全体を通しても白眉と言えるものだ。

 

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 玲音は孤独を自ら好んでいる少女ではない。そう隆太郎さんは解釈して、窓際に多くのぬいぐるみを並べた。
 (今は)空虚な部屋に帰ってきた玲音が、肩を下げてリュックを降ろし、制服の上着を脱ぐまで。暫しベッドで物思いに耽り、ややしておもむろに勉強机の上を片付け始め、奥に押しやっていたNAVIを前に持ってくる一連の長回し

 

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 Powerスイッチを入れるとOSが起動する。
 玲音のNAVIはこの後加速度的に進化していくのだが、最初に触れるのは子ども用OS。
そう言えばこの頃のMacintoshにはAt Easeという子ども用のインターフェイスがあったっけ。使った事はないけれど。
 認証ルーティンなど、シナリオでは音声認識は限定的で、主にタイピング+テキスト表示で描写していたが、隆太郎さんは全てを合成音声応答に演出変更をした。シナリオで
   S  「――」


 と書かれているのはスーパー・インポーズ=テキスト表示の意味だが、声優の方に全て喋って貰う事になり、エンド・クレジットで「S」という珍妙な役名が書かれる事になる。


 勿論、こういった事はみな「判って」やっていた。
 ゲーム版からして、極めて深刻でシリアスで、ハードな内容をやっていく上では、スタッフ間でも時にネタで笑ってバランスをとらなばならなかった。
 安倍君の「ちびちびレイン」マンガや「ウェザーブレイクのエンドマーク」など、「lain」のギャグ性は安倍君に負っていた。

 

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 OSのロード時の「頑張ってます……」というのもその類いの一つなのだが、こちらはゲーム版ディレクターであった、インターフェイス画面製作者の中原順志君の切なる心の声でもあった。
 PlayStationというディスクからロードするゲームは、とにかくロード時間が長くなりがちで、ゲーム製作者は如何にロード時間を短くするか、別な目の引き方でユーザを飽きさせないか、常に戦ってきていたのだから。
「頑張ってる」という文言は、そういう「気分」が重なっている。

 メールの文面と玲音が擬似的な会話をするというシチュエーションは、私が好んだ話法で、実写の「学校の怪談」(アルタミラ・ピクチャーズ版)ではビデオを再生している女の子と映像内の女の子が会話するという場面を書いていた。

 

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 以前記した様に、シリーズのラストはゲーム版同様、玲音が銃で自分を撃ち抜いて死ぬ――という衝撃的なもので終わる筈だった。
 逆に言えば、そこさえ守れば、そこに至る過程は自由だったのだが。
 しかし、四方田千砂の自殺というプロローグで始まり、終わり近くでは別の列車事故(玲音は実際に見ていないので、それが女子高生の自殺なのかどうかすらも判らない)に遭遇するという1話のシナリオを書いた段階で、もう玲音の自殺というラストは絶対に有り得ない。
 これは今だから書けるのだが、私は内心、ラストは変えるつもりで話を組み始めていた。あとはどう上田Pを説得するが問題だった。これについてはまた後で記す。

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 それにしてもこの頃のトライアングル・スタッフには勢いがあった。lainの枠はそれ以降も暫くトラスタ作品が続くのだが……。

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 玲音の心が抱える問題要因の一つが、家族――岩倉家の人々、主には「母」と姉の美香の無関心さにある事が提示される。

 

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 一方で、遅くにしか帰ってこない父親・康雄はどうであったか。