welcome back to wired

serial experiments lain 20th Anniversary Blog

「魔法使いTai!」


 実写ライターの私が、本格的にアニメに参加する様になった初期作品の一つであるOVA「魔法使いTai!」の経緯は、ここで既に述べた。

 この頃はソフトがよく売れた時代で、この作品もOVAなのにサントラは勿論の事、イメージ・ソングCDなども何枚かリリースされ、当然の様にドラマCDも企画された。
 しかし「小中さんには書けないだろう」という事で(確かにそうだったのだが)、山口宏さんが脚本を担当された。

f:id:yamaki_nyx:20180623103503j:plain


 ヒロインら魔法クラブのある高校の文化祭というコンセプトとなり、様々なクラブ活動を描くというもので、軽音楽部のライヴにヒロイン3人娘が飛び入りするという設定で、私が当時やっていた(今もあるんだけど休止中の)ホーン・セクション入りバンドで「魔法少女メドレー」をヘッド・アレンジし、演奏した。オケのみ一発録りでADATのステレオに録音し、後で3人のヴォーカル、更には観客である生徒達の歓声や台詞が録音されて完パケになった。
 元々、我々のバンドの持ちネタの一つだった「スキスキソング」(「ひみつのアッコちゃん」ED)と、Chaseの「Get It On」をミックスするネタ曲があったのだが、これを拡大して東映動画魔法少女物OP曲メドレーにしたものだった。

 

 また、映画研究部の青臭い自主映画にヒロインの一人が出演するというネタは、「凍った踏切」というタイトルになった。実はこのタイトルは、総監督である佐藤順一氏が自主製作時代に作った短編作品からの引用。この自主アニメは、先日出版された「別冊映画秘宝 アニメ秘宝発進準備号 オールタイム・ベスト・アニメーション」で角銅博之さんが、ホラー・アニメ Best10の1本に選出している程完成度が高く、怖い映画である。
 ここで先の私のエントリを読み返して貰いたいのだが、あれほどホラーが嫌いで、ちょっとでも「怖い話」を雑談中に始めたら本気で怒り出す佐藤監督が、なんでこんなに怖いものを作ったのかは永遠に未完な謎だ。

 

 さてCDは発売になり、OVAの製作もやっと終わる1997年になって、完成記念ファン感謝イヴェントをやろうという事になる。言い出しっぺはやはり伊藤郁子さんなのだが。
 文化祭CDのネタを実際にやろうという事で、私たちのバンドのライヴ演奏もやったのだが、映研の映画も上映しようという事になる。
 だったら佐藤順一監督の「凍った踏切」を上映すればいいのだが、怖すぎるし、アニメと全然関係無いので、じゃあオリジナルで短編映画を作ればいいじゃないか、という無茶な話になる(雑談会議あるある)。
 誰が作るんだ……。ヒロインの一人、飯塚雅弓さんを主演にイメエジ・ムーヴィーみたいなものなら何とか出来るか、と、実写自主映画の監督上がりである私が撮らされる事になる。

f:id:yamaki_nyx:20180623103608p:plain


 まだその頃8mmフィルムはあったのだが、1日で撮るしかなく失敗が出来なかったので、ビデオ撮影となる。
 それまで、民生用でビデオの編集というと、家庭用VHS(初期にはβマックスもあったが)でダビングしていくオフライン編集(当然画質は劣化する)と、3/4インチなど上位フォーマットにアップコンバートしてプロ用編集室で行うオンライン編集という2択しかなく、後者には多大な予算が必要で全く考慮の余地が無かった。
 ところが1996年頃、ビデオをデジタル化したDVというフォーマットが策定され、家庭用ビデオキャメラも発売され、更にその映像はFirewireIEEE1394)規格でPC/Macにとり込める拡張ボードが10万円程度で発売された。
 それまでパソコンでのビデオ編集はMotionJPEGの高価なボードと、UltraSCSI接続の10000回転ハードディスクという設備投資で最低でも150万くらいの投資が必要だったのだが、DVの登場で一挙に手を出し易くなっていた。
 また編集するソフト環境も、AdobeのPremier、Aldusから買収されたAfter Effectsが(高価ではあったが)整備されていた。
「8mm自主映画」のシミュレーションをするにはビデオ映像のままだと全く雰囲気が違ってしまう。
 当時のPhotoshopは、サードパーティが多くのプラグインを発売していたが、After Effectsもどんどん新しいプラグインが発売され始めていた(後の『lain』では画面を様々に汚す系のものを多用した)。
 
「CineLook」という、フィルムの粒子荒れやフィルムの傷、パーフォーレーション(フィルムを送る孔)のヘタりを再現しガタガタとフレームを動かすといった一連を再現出来るというプラグインが発売されるというニュース・リリースを雑誌で見つけた。
 しかしまだ店頭には並んでおらず、私は輸入元に直接電話をしてそれを買いに行った。
 日本のユーザとしてはほぼ最初の何人かに入った筈だ。

 このプラグインの効果は絶大で、「lain」の9話で大いに活用している。


 ――という事で、あとはDVカメラさえ買うと、映像製作環境が整ってしまうという実に格好の時期だったのだ。
 After Effectsで何重にもフィルタを掛けると、数十秒のレンダリングでも一晩かかるので、映像編集専用にPowerMac 950を新規に導入し、2GBx2のRAID HDDを増設(これが一番高かった)。

 当然ながら、これらの設備投資も映画の製作費も私の自腹だった。

 

 3分程度の作品だが、高校生が目一杯背伸びした青臭い青春映画という事にして、佐藤さんにラフなイメエジボードを描いて貰い、それを元に私が撮影用コンテに割って撮影した。
【追記】ダイアローグやおおまかな筋は、山口宏さんがCDドラマで書いたものに則っている。


 最後に、ただ一人の出演者である飯塚さんが、踏切をスキップしながら去って行くラスト・カットは、スローモーションになってアニメーションの羽根が浮かび上がって羽ばたく――というカットになっていて、羽根のアニメーションは伊藤郁子さんが描いてくれたのだけれど、まだ初心者の私はそれを実写に合成するスキルがなかったのだが、知り合ったばかりの角銅博之さんが助けてくれ、マッチ・ムーヴとコンポジットは角銅さんが担当され、見事なカットに仕上げられた。

f:id:yamaki_nyx:20180623103643p:plain


 この「凍った踏切」(実写版)と、「ゲゲゲの鬼太郎」4期89話「髪の毛地獄! ラクシャサ」、どっちが先だったのか、ちょっと思い出せない。
【追記】角銅さんも、どっちが先か覚えていなかった。

f:id:yamaki_nyx:20180623105715p:plain

 結局1話だけになってしまったが、「ゲゲゲの鬼太郎」を私が書いたのは、そもそもこの期のシリーズ・ディレクター西尾大介さんが「金田一少年の事件簿」に行く事になり、後を受けた(クレジットはされていなかった気がする)佐藤順一さんが、ホラーなんだから小中さんにも書いて貰おうと言いだしたからなのだが、いざ打合せする段になると、佐藤さんは「夢のクレヨン王国」を立ち上げる為に抜けてしまったので、そこで角銅博之さんと組む事になった――という経緯で、色々と偶然が繋がっての事だった。

 角銅さんとは、先にパソコン通信のクローズドな会議室で知り合っていた。元々グループえびせんという、自主映画界では知られた自主アニメサークルの作家で、特撮系自主映画をやっていた私とは非常に趣味嗜好知識が重なり、すぐに仲良くなっていた。
 もうこの頃、東映専属ではなかった気がするが、角銅さんは様々な偽名で多くの他社作品でコンテを切っていた。

 そして「lain」9話が角銅さんの担当になった。