ナイツのメンバーを暴き出す為に、玲音は自らの身体にワイヤーを巻き付け、唇にワニ口クリップをつけてまでワイヤードに没入せざるを得なかった。それはしかし、身体の機械化というよりも、自縛というメンタリティに陥っていた精神面の方が大きい。
MIBの二人が玲音の部屋に訪れてくる。
林とカールには態度の違いが見られる様になっている。
「どうしてあんな事をしたの……?」
玲音は、自分が暴いたナイツのメンバーが抹殺されている事を知っていた。
カールは静かに、ワイヤードの神を崇める者達は除去されるべきで、世界中の彼らの仲間がその任務を遂行中だと言う。ワイヤードに神など必要ないのだと
ワイヤードは特別な世界ではあってはならない。あくまでリアル・ワールドのサブシステムであるべきだとも。
シナリオでは、玲音はもっと強く異議を申し立てているのだが、この描写では強い言葉は言えまい。岸田さんの設定画で「ぐるぐる玲音」と命名された状態では、玲音の意識は半分ワイヤードにあるのだ。
林は冷笑的に、玲音もワイヤードでは極めて異質な存在だが、“処理”されずにいる。どうやら「神の御加護」があるらしいと言って出て行く。
カールはしかし、違っていた。
静かに、いずれ英利政美の残留思念プログラムもプロトコル7から除去されるだろう。
我々にはあなたが何なのか判らない。
自分の目を見せて言う。
「私達は未だにあなたが理解出来ない。しかし私は、あなたが好きだ。不思議な感情ですね、愛というのは」
玲音にとっても、これが自分が望んだ結果なのか判らない。
目を閉じて、ワイヤードに没入する。
だがそこは岩倉家前の坂道。
ここがリアル・ワールドではなく、英利と会う仮想世界なのだとはっきり判るのがこのカット転換。
荒々しい「線」のエフェクト・アニメーションが、風の強さを実感させる。
玲音は英利に訊ねる。「どうするの? お祈りする人がいなくなっちゃったよ」
英利が姿を現す。ワイヤードなので、浮遊するのも現れるのも自在なのだ。
英利は、一人でも神を崇拝する者がいれば神でいられると言う。
「誰?」
「いやだなぁ、君だよ。君が君でいられるのは僕のお陰だ。君はもともとワイヤードの中で生まれたのだ。ワイヤードの中の伝説、ワイヤードのおとぎ話の主人公――」
玲音は「嘘――」と拒否する。
「リアル・ワールドの岩倉玲音はそのホログラムに過ぎない。人工リボゾームによるホムンクルス。君の実体などもともと無かったんだよ」
「嘘だよ……」
「嘘の家族、嘘の友達――、そう全部嘘だったんだ」
「嘘だよ、そんなの……」
玲音は自分の家を振り返る。
涙で滲んで像は歪み、不確かな形になっていく。
英利は玲音のすぐ傍らに来て、玲音の片側だけに下げた髪の束を握る。
「可哀相な玲音。もうひとりぼっち。でも僕がいる。愛している僕がいる。君をこの世界に送ってあげた僕を、君は愛してくれる筈だ――」
さて、英利が告げた「玲音の出自」は本当なのだろうか。
シナリオを書いていた私は、「かもしれない」程度の確度しかないと思っていた。だから英利の主張を裏付ける様な客観的証拠はイメエジでも一切提示しなかった。
だが、隆太郎さんも上田Pも、「その可能性が高い」と解釈した様だ。
玲音は――、英利の言葉を拒絶する。
「もう一人のあたしが――」
「もう、一人の君じゃない。一人の玲音なんだ」
玲音は突き放してレインの強い言葉で英利に抗う。
「どっちでもいいよ! そんなの!」
レインの感情のあまりの凄まじさに、英利は圧される。
送電線がぶち切れ、地面にのたうつ。
玲音は一人ぼっちで、そこに立ち尽くしている――。
画面設計は岸田隆宏さん。多くのカットがそのまま原画となった。
そして今回の作画陣。
ほんの数秒分だが、私担当の映像製作はこれが最後になった。
実写を投入するなど、シナリオでやれる手は尽くしたが、どうしても次話は現場が厳しく、A-Partは総集編にせざるを得ないと上田Pから告げられた為、今話の後半は情報量を圧縮せざるを得なかったのだが、結果として静的な前半とテンポが速い後半というコントラストが作れたし、これで良かったと思っている。