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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:12 Landscape Exotic Towers

 

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 物語として閉じねばならない事柄は既に提起してあり、それらに結着をつけるのは当然だとして、如何にこのシリーズにクライマックスをもたらしたら良いのか――。

 中盤以降のシナリオで私は常にそれを意識していたのだが、バトル物でもアクションSFでもない本作は、日常描写をリアルに描く事で当時はまだ絵空事であったネットとリアル世界の二重構造を、静的な景観として描くしかないのだと私は思っていた。
「Landscape」は、いつの間にか見慣れた風景が、ふと気づくと全く異質なものに変容している事に気づき、自分を取り巻く環境が変質したと実感する――
 前話から度々表現されている、街中に聳え立つエキゾチックな塔の数々は、様々なシンボリック的役割も持つのだが、本作が見せ得る日常に現れる非日常――怪獣的なニュアンスで考えていた。
 
 しかし、シナリオを書き進める内に「これはまずいぞ」と思い始めていた事があった。
 それまで一元的に「玲音」というヒロインの観点で描いていたが、何が起こったとて、それらは全て玲音の心的な問題に因する、主観的な心象という解釈を容易に導いてしまう。
 勿論、本作では玲音のディリュージョン、幻覚も特に初期話数では誇張気味に描いてはいるのだが、全てが妄想となるとフィクションは愉しめない。客観的な出来事と裏腹のギリギリを描くのが「lain」というシリーズなので、最終的には大客観で終わるべきだと考えをシフトさせた。

 瑞城ありすというキャラクターが、当初の構想よりも遙かに重要な存在になっていったのは、そういう私のプラン変更があったからだった。

 


 コンテ・演出:中村隆太郎 演出協力:うえだしげる 作画監督:岸田隆宏

 

 普通なら、メイン・アニメーターが作画監督を務めるのは初回、最終回なのだけれど、岸田さんの作監クレジットはこの12話のみ。
 オープニングにも参加されたスーパー・アニメーターの方々を始め、監督をする人々など尋常ではない原画クレジットがラストに見られる総力戦となっているのだが、内容を見れば納得させられるものの、当初からのプランでそうなったのではなく、そうせざるを得なかった事情が大きかったと思う。後半から中村隆太郎監督のコンテ、コンテ修正がどんどん遅れており、作画期間が極めて厳しかった。
 岸田さんが直接声がけしなければ12話は無かった。


 さて前話、玲音は鴎華学園中学生徒達の記憶を改竄する事に成功したが、ありすだけはその対象から外されていた。

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 アヴァン・タイトルでは玲音の喋りから入る。

「なぁんだ、そういう事だったんだ」

 玲音の声は明るい。

 

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 青空バックのサブタイトル。

 

 教室でありすは浮かない顔でいる。

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 樹莉、麗華らと愉しく談笑している玲音――

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 これほど明るい玲音はいつ以来だろうか――

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 ありす――

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 ハッとなる。

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 玲音がありすに向いて、アルカイックな笑みを見せている。

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 何ら邪気の無い、しかしその表情は――

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 目を思わず逸らしてしまったありす、携帯NAVIの着信に気づく。

 

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 釈然としないありす。

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 今話から、砂嵐の中に浮かぶ玲音の映像が頻繁に混入される。
 砂嵐――というのはアナログTVが何も受信していない状態のノイズであり、若い人は見たことすらもない人も多くなりつつある。

 いずれにせよこの玲音は、テレビのブラウン菅を通して、視聴者を直接見ているのだが、それがどういう意味を持つのかは、最終話で明かされる。

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 閑散としたサイベリアで、相変わらずくだを巻いているキッズ。
 新しいMRゴーグルでワイヤード接続していたタロウ、いきなり笑い出して言う。

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「俺、天使とキスしたんだぜ」

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 ミュウミュウはそんなタロウを悲しそうに見る。

 

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「景観」モンタージュ。今話は松浦錠平さん(3,7,11話演出)が担当された。
 塔の佇立する景観は、見えない電線が遙か上空に張り巡らされており、それらを行き交う膨大な情報を送受している事を暗示している。

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 ネット・ニュウズのアナウンサーが初めて顔を出して、プロトコル7がこれからのワイヤードとリアル・ワールドを変えていく事を宣言する。
 

「では次のお知らせです。玲音を好きになりましょう」

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 玲音が鴎華学園生徒らの記憶を改竄出来たのも、プロトコル7(シューマン共鳴ファクター実装)が既に整備済みであったからだった。
 アナウンサーが妙な事を言い出すのは、玲音の無意識にある承認要求衝動が作用していたのだろう。

 ここでアナウンサーの顔を出すコンテに私は強く反対したのだが、最終話のマドレーヌの件もそうだが、画面については隆太郎さんは絶対に異論を認めなかった。
 
 私が反対した意図は、メタ的な視聴者への直接話法が、画面の中で完結してしまうからなのだが、見直しても「やっぱり要らないなぁ」とは依然思う。しかし隆太郎さんには必要だった。

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 確認していないが、このタイポグラフィ・パートはやはり上田Pの作だと思う。