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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

一夜だけの幻のクラブが出現した

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 ファンによるファンの為のイヴェント、「クラブサイベリア」が無事、大成功となった。

 メディアの方も来ておられたし、レポ担当の方も撮影担当スタッフもいたので、詳細なレポはいずれ上がると思う。
 当日の午後一開場の様子をTweetで見ていたら、既にフロアは立錐の余地も無さそうという。GoPro HERO6+4Kモニタ+LEDライトで展示ファンアートやDJ/VJの様子を撮ろうと思っていたのだが、到底現場で組み立てるのは不可能そうなので、結構離れたところしか空いていなかった駐車場で組み立て、裸でケージごと持ち込んだ。
 だが、それでも動画収録など到底不可能という入り。

 スタッフ込みでCIRCUS TOKYOのキャパ上限(180)で、フロアでは収容仕切れず地上階のラウンジ(ファンアート展示場)にも人が溢れていた。
 ここで近田和生さんと20年ぶりの再会。
 今回のイヴェントはこの方無しでは成立し得なかったし、声優でDJな人は世界でも近田さんしか(多分)いないのでは。しかも、今回のイヴェントに合わせて急遽インディーズでCD「Cyberia Layer_2」をリリースされ(主催のシオドアさんの仲介で安倍吉俊君がジャケットを描く)、その物販ブースでファンにとてもフレンドリーな対応をされていて有り難いと思ってしまった。
 
 近田さんと挨拶をした後は、もう行き場を失い安倍君とスタッフ控え室になっていた半地階のPA卓裏にて待機するしかなかった。
 でも音は当然ながら最高の状態で聴けていたし、ステージは遠かったので、DJ達の様子はよく見えなかったのだけれど広い視界で見られた。

 埼玉で別作品のイヴェントに出演したその足で駆けつけてくる清水香里さんを待っていたら、いきなり「ぅおつかれー、ぅおつかれー」と言いながら上田Pが入ってきて、一瞬絶句。てっきり仕事で来られないと思っていたのだが、幸か不幸か予定が飛んで、こっちに来てくれたのだった。
 この時点で、トークに参加して貰う段取りは無かったのだけど、これは最強の当事者(原案)として喋って貰うしかない。

 


 清水さんも揃って、さあ安倍君のライヴ・ペインティング&トークの準備――、あ、その前にシオドアさんが「2話のサイベリア少年役」を演じる寸劇があったり(これは盛り上がった)、あちこちで同時多発な出来事があって、全容を全て把握している人は多分誰もいないと思う。
 運営スタッフのアテンドはきっちりした対応で、我々ゲストへの気遣いも素晴らしく、上田Pとしきりに感心していた。

 安倍君の機器の接続が難儀した様で、トーク開始時間が押してしまい、シオドアさんが孤軍奮闘しているのを見かねて、「もうトークだけでも始めよう」とスタッフに告げた辺りで準備も出来た。

 シオドアさん、土方ペチカさんのMCで、安倍君が舞台下手のライヴ・ペインティング・コーナー。清水香里さんと私でのトークが始まったのだが、私は早く上田Pを呼びたくてモジモジしていたかもしれない。
 
 PS版の質問が来たところで、上田Pを呼ぶ。まあ期待通り、ぶっちゃけた話になって、活字になると伝わらない彼の独特なニュアンスが伝わったと思う。
 もの凄い拘りと、ビジネスライクな割り切りと、クリエイター魂を持ったプロデューサーだ。
 PlayStation版の再販というかアーカイブは「誰かやって」。
 マジです。

 清水さんの話でやはり一番印象的だったのは、5話の録音後、帰宅してから気分が悪くなったという。
 5話で酷い目に合うのは美香なのに――と、その時は思わず漏らしたのだけれど、玲音にも群衆の中で佇立しぶつぶつ呟くという異常な場面があった。しかもその台詞はその場で私が書いた、「そもそもよく判らない内容のアニメなのに、なんでここでこんな事言わなきゃいけないのか全然判らない」と思わせる様なダイアローグだった事を、帰り道に思った。
 異常な話法を、それはそれで愉しめるのは、それなりに「普通はこう」という事を知っている層なのであって、製作時、玲音と同年齢だった清水さんには酷な事をさせてしまったのかなぁとも思うのだが、その後のJJとのコラボ・ステージで滅茶苦茶愉しんでいたし、そもそも「lain」に愛着が無ければファン・イヴェントにも来ない。安倍君の展覧会に行って、絵を自腹で買ったりもしない。
 あ、でもライターには恨みはあるのかもしれないが(冗談)。

 トークの中では、「中村隆太郎監督について」の各自コメントのところがハイライトだったと私は思っている。私自身はブログで書いている事もあり、あまり中身の無い話しか出来なかったのだが、上田P、清水さん、安倍君それぞれのコメントは何れも隆太郎さんという人を色んなアスペクトで描写していて、聴いていた人達にも像を結んだのではないだろうか。

 トークは終わり、"JJ"の最後のパフォーマンスが始まるのだが、ここで清水さんにも絡んで貰いたいので、私に台本を書いて欲しいとシオドアさんから依頼があり、二つ返事でOKして、その日中には書き上げた。

 


serial experiments lain」の続編などというものはそもそも有り得ない(完結している)上に、隆太郎さんが亡き今となっては、玲音とJJの台詞を書けるという、脚本家としてこれほど嬉しい依頼は無かった。

 実は最初「Play Track 44」という部分は書いていなかった(というかその発想が無かった)のだけれど、シオドアさんが自分用に作成していたTシャツのロゴを見て、「あ、いかん。そういう台詞があった」とやっと思い出して、翌日2稿目を送ったのだった。

 清水さんも20年振りに玲音を演じられるのは緊張した様だけれど、自前でくまパジャマをゴロゴロに入れわざわざ持って来られて、着てくれたのだから完璧だ。
 
 近田さんは、2nd Unit Music(劇伴第2班)竹本晃さんと共に、シリーズ製作終了後に「Cyberia Mix」というアルバムを作られ、「serial experiments lain」という作品の単に「暗い、難解」というイメエジ払拭にとても大きな貢献をして貰えた。
 だから今回のクラブサイベリアの様なファン運営によるクラブ・イヴェントという、普通に考えて無理な事を、無理を通して仲間を集め、頑張って実行させられたのだと思っている。

 
 清水さんが舞台を捌けて、少し休んでいる間はずっと上田Pと昔話をしていた。ブログでの記述に幾つか誤記があったのでその内訂正エントリを書くつもり。
 中原順志君、もしこれを読んだら上田Pに電話入れて欲しい。


 JJのパフォーマンスが絶頂に向かっている時間帯(フロアはマジに揺れていた)だったが、清水さんを早めに出してあげたかったので、ゲスト陣はここで失礼させて戴いた。


 間違いなく、超手作りイヴェントだったし、スタッフによる準備の大変さも、あの盛況ぶりで報われただろう。
 
 私がちょうど「デジモンテイマーズ」BD Box販促でTwitterをやっていたので、シオドアさんが「lainの20周年で何かやりたいんだけど」と呼び掛けている時から私は認識しており、VJ用の素材を提供しますよと言っていた。その時点ではせいぜい集まっても30人くらいだろうという規模だったのだが、徐々に想定規模が拡大していき、チケットは分割限定で時期をずらして発売されていったのだが(これも興行の今のやり方がまさにそう)、すぐに瞬殺が続き、最終的には抽選販売。
 来られなくて残念だった人も多かったとは思うのだが、普段から20年前に好きだったアニメのTwitter情報なんて、そうそう見出せるものでもないだろうし、これ以上大規模なハコでのイヴェントはリスクが大きくなってしまう。
 イヴェントの配信というのは私も含め、要望が各方面から出ていて、限定的な形ではあったのだが、U-Streamで(あまり宣伝はせず)流す事が出来たので、少しは救済出来たかなと思っている。

 版権物を扱う上では殆ど無理という事が、実現出来た。勿論20年前のものだから、という事はあるのだけれど。
 いや、20年前のアニメで、音楽? 幾ら何でも流行廃りというものが――、でもクラブ・ミュージックのベーシック・トラックは不思議な事に全然色褪せないどころか現役感があり、近田さんがアップデートする――

 何とも不思議な現象だなぁ、と、熱気溢れるフロアの上でぼうっと思っていた。

 予想していたけど、当時中高生という人が半分くらいで、もっと若い人(18歳!の人すら)も集まっている。特にイラスト系クラスタは若い。当然、放送後に知ったクチの人達。

 そういう人達に何がアピールしたのか、正直分析は出来ていないのだけれど、まあユニーク性に於いてだけは絶大な自信はあるし(それが良いかどうかは別な話。基本はやっぱり『暗い・難解・不安感』のアニメなのだから)、これは寧ろ憂うべき事ではあるが、ネットの進化度が20年前の想定よりは遙かに遅かったので、劇中描写が意外と風化しておらず、ネットの持つ魔性と、僅かにはあるかもしれない期待・希望の様なものが、割と維持出来ているという事なのかな、と今時点では考えている。

 ともあれ主催代表のシオドアさんは毎週の様に大阪から東京へ来てミーティングを重ねられ、当日は我々のアテンド、MC進行、総監督と八面六臂での立ち回りでさぞや疲れただろう。私も若い頃(厭々だが)イヴェント仕切りをやった経験があるので判る。予定が押した時のストレスたるや寿命を数週間は縮める。
 サポート、映像出し、音響スタッフ、場内でパフォーマンスを披露しながら適度にブレイクを入れるコスプレ・スタッフ、ひたすらケータリングなどで走り回るスタッフと、あの狭い司令室(PA宅裏)をベースに献身的に動いていた。

 7月7日の「serial experiments lain」放送開始20周年記念イヴェント「クラブサイベリア」は、完璧に成功したイヴェントとして何の事故も起こらず、我々ゲストも、スタッフも、そしてチケットを手に出来た人達もみんなを「達成感」の笑顔で終われた事が何より嬉しかった。

 私も、これまた20年振りくらいに弟・和哉と実写映画でコンビを組んで、その撮影稿をキャストに合わせてリライトする作業が直前まであって、当日行けるのか危機的な瞬間もあったのだけど、前日までの雨が止んで晴れとなった当日の天気もあって、なんか色々と「まさか本当に神がいるなどと!」と脳裏を過る1日だった。

 取り急ぎ、スタッフの皆さん、来場者の皆さん、Twitter実況を見守っていた皆さんに、ゲスト全員の気持ちを込めて御礼を申し上げます。

 本当にありがとう。