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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Duvetのシングルレコード発売

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 夏のクラブサイベリアが終わった頃だったか、disk Unionのシネマ館レーベルの人からフォロー要請があり、DMを貰った。
「Duvet」を放送20周年の今年、かつては出された事のないアナログ・レコードで発売したい。ついては本ブログの文章をライナーに転載してよいか、という要請だった。
 本ブログは「Duvet」についてから書き始めている。今も尚、気軽に聴く事が出来て「serial experiments lain」シリーズ全体を思い返そうとした時、この楽曲ほど強力な装置は無いからだ。
 ブログの1エントリだけではライナーとして収まりが悪いと感じ、多少の加筆をした原稿を送った。

 ただ、それから結構間が開いた。
 案の定と言うべきか、権利元との交渉に時間が掛かっていた。交渉に時間が掛かるというより、交渉する相手に行き当たるまでが難関だった様だ。
 しかし企画・担当者の人の熱意は結果を導いた。
 この人が熱烈な「lain」の支持者である事は、ユニオンの紹介ページのテキストを読めば判る筈。
 20周年イヤーである2018年内に、この「serial experiments lain duvet ep」をリリースして貰えた事に心から感謝している。

diskunion.net

 

 今年はこの曲を随分聴き返してきた。
 これまで本気でベースをコピーした事が無かったのだが、完コピしてみると、結構難度が高いと知る。
 デビュウ時のbôaのリズム・セクションは、それまでBritish Jazz Funkの流れのバンドをやっていたらしい。ギター・オリエンテッドなバンド・サウンドだが、それを支えるグルーヴは寧ろSoul Music(R&B)なのだ。
 この曲の「やってみた/弾いてみた」系の動画は過去幾つか見たが、バンドでやっている場合は結構コードの解釈が違っている事があった。
 ベースはヴァース、コーラス共にG,B,Eを頑迷に周回しており、分数コードの分母を維持している。アルペジオ・ギター間奏のバックで控えめなソロというかオブリガートを弾いている。これもなるべく音数を絞る様な動きなので、直感的には判らずかなり聴き返した。
 テクニックとして難しい事は何もしていないが、曲のダイナミクスをシンプルな8ビートラインで弾き出している。
 ドラムはゴースト・ノートを多用しており、勢い命な太鼓ではなくセンシティヴだ。

 しかし支配的なのはやはりアコースティックとエレキのギター多重録音。だが無駄に重ねる事はせず、ハーモニクスだけを重ねるなど、無闇に分厚くする事を避けている。ディレイを掛けたペダル・スティールが、アマチュアバンドで再現する場合での鬼門になるのかもしれない。

 旧バンド・メンバーの手によるアレンジで、クァルテットの弦楽が加わるが、決して華美に楽曲を飾り立てる意図ではなく、ジャスミンのエモーショナルなヴォーカルを支える為のパートとなっている。

 
 さて今回のEPには4ヴァージョンが収録されている。これらが一枚のディスクに収められたのも今回が初めてとなる。
 Layer:A、Layer:Bと分けられた。
 普通はアルバムのボーナス・トラックとして、CDの終わり辺りに収録されていた「TV Size」がLayer:Aのど頭に来る。これには唸らされた。
 まずはこのヴァージョンが視聴者には刷り込まれたのだ。
 中村隆太郎監督がコンテを切った、あのオープニングを脳内にいとも容易く浮かべられる。

 続いては、Acoustic Versionが来た。
 このトラックの初出は多分、文化庁メディア芸術賞受賞記念でリリースされた「Tall Snake EP」だと思う。デビュウ・アルバム収録時よりも後に録音されたものだ。恐らく、日本のアニメの主題歌になったから録音された筈だ。
 元々オリジナルの「Duvet」も、かなりアコースティックなサウンドなので、このヴァージョンは僅かにテンポを落としたドラムレス版というのが実際だと思う。ペダル・スティールも入っているし、途中からベースも入るので、全くのアンプラグドではない。


 盤面をひっくり返すとLayer:B。
 ここで来る「Cyberia Remix」。本編の2nd Unit Music担当だった竹本晃氏と共に、近田和生氏=JJ役にして本業DJであるWASEI "JJ" CHIKADAによる大胆なリミックス。
 オリジナルのマルチトラック音源を正規に取り寄せて作られているのでクォリティが圧倒的だ。
 また、オリジナルの音源に入っていたジャスミンの仮歌なのか、本来は聴かせない筈のウィスパー・ヴォイスがフィーチュアされていて、「Cyberia Mix」リリース当時から驚いていた。
 ロシア風というのか、舌を巻く発音でウィスパーで歌うところにはゾクゾクさせられる。
 
 そして、今回のレコードで私が最も感銘を受けたのが、盛り上がりきって終わる「Cyberia Remix」から直結ですかさず、「Duvet」のオリジナル・ヴァージョンが切り込む様に、しかし静謐に始まるところだ。
 このマスターのエディットにはスタンディング・オヴェーションをしたい。

 今も全く「古い」と感じさせない、Cyberia Remixから、オーガニックなオリジナルへの流れは、このレコードが単なる「リリース」なのではなく、「Duvet」を鑑賞する新しい体験をさせてくれるメディアとして提供されたものなのだ、とはっきりと判らせてくれる。


 今はアナログのプレイヤーを持っている人は余程物持ちが良い人かマニアかもしれない。しかしヴァイナル(レコード)のプレス数は国内でも今尚増加をしているのだそうで、カセット・テープなどと違い今も現役なメディアだ。流石にDJプレイでアナログのターンテーブルを回す人は少ないのだろうが、スクラッチ用に一枚、保存用に一枚。

 この限定プレスのシングルが瞬く間に売り切れたなら、来年以降にアレとかがまさかの再リリースがあったりするかもしれない。