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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:08 Rumors - Deleting Memories

 

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 再び畳の間。

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 今度は口だけの人間ではなく、文楽人形の様な玲音の複製人形が居並んで口をガタガタさせている。これも震えと口の動きが揃っていたら興冷めになる訳で、撮影で精緻にタイミングがズラされている。つくづく酷な話数になったと思う。

 玲音(レイン)は、自分の預かり知らぬところに別の自分が存在するなんて認めたくない。それは誰だってそうだろう。
 

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 するとデウスが、抽象的な姿ではあるがそこに現れる。
 メタリックで不定型な浮遊体が絶えずフォルムを変え続ける――という難描写に挑んでいる。常に複雑な光を反射し続けていて、光のエフェクト・アニメーションも加わる。

 デウスは言う。玲音はワイヤードに遍在(偏在ではない)してきた存在なのだから、どこにだって居たのだと。ワイヤードの情報は普くシェアされるべきなのだから、君の行為には正当性があるのだと。つまり――、玲音は「神」に近しい存在なのだと。

 玲音は「そんな話は信じられない」と叫び――


 ガタガタ動く玲音人形を倒していく。

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「こんな不出来なデュープをあたし自身だって思えって? ふざけるんじゃないわよ!」 打ち倒していく玲音。

 私がディレクター時代、テープのコピーをデュープ(デュプリケーション)と呼んだのだが、全く一般的な用法ではなかった。ちょっと後悔する言葉の選択だった。

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 首だけの玲音人形。

 玲音は、もし自分がデウスが言う通りの存在だとしたら、みんながレインに見られたという情報=記憶だって消去出来る筈。何故ならデウスに近い、ワイヤードに遍在する存在なのだから――と言う。

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 デウスは、だったらやってみたらいい。君はそれが出来るという。

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 玲音はそのコマンドを実行する。

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 気づくと、朝の鴎華学園高校の校庭にいる。

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 背後から、「玲音ー」と呼ぶありす達の明るい声。

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 恐る恐る振り向く玲音。コマンドは成功したのか? あの記憶は最初から無かった事に出来たのか――?

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 と――玲音からもう一人の玲音が抜け出してありす達の方へ走っていく。

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 茫然と立ち尽くす玲音は、もう一人の玲音がありすに甘えてすり寄る様を見せつけられる。

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 やめて! あたしはここだよ!

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 しかし四人は楽しげに、校舎へ向かい、玲音を置き去りにしていく。

 突如、lainが玲音の前に顔を突き出す。

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「そうだよ。玲音はレイン。あたしはあ・た・し」

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 他者の記憶は操作出来ても、自分自身と自分が過去に起こしたことの記憶は残っている。

 

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 暗い自分の部屋で、「ハロー、NAVI」

 浮かぶCopland OSのインターフェイスに手を合わせる。

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 体温など感じられない。しかし今、玲音を迎えてくれるのはNAVIだけ。


 今回のアニメーターの方々。

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 そして撮影担当。 

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Layer:08 Rumors - lain vs lain

 

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 ありすの部屋で然様な出来事が起こっていたという情報が、ワイヤードを駆け抜けていく。

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 玲音は自分のベッドの中でそのあまりに残酷な事実――自分が認識しない自分がしてしまった事――に、悲痛な声を上げるしかなかった。

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 この場面はシナリオにはなくコンテで加わったもので、極めて強烈な印象で玲音の心が裂かれる様な気持ちを共感させる。

 

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 ここからのイメエジ・カットの連続こそが、中村隆太郎コンテの恐ろしい威力を感じさせるパート。

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 全く見当違いなのだろうが、私は『哀しみのベラドンナ』を想起した。

 

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 そして、レインがlainと対決する。

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 玲音と視聴者は当初、この「悪いlain」は悪意ある他者(デウスかナイツか)によって作られた別個の存在だと無意識に思おうとしている。だがそうではないという事が次第に判ってくる。

 

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「他者の体温」――、ありすに握られた手、lainの頸――。

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 肉体の触れあいが、この抽象的なモチーフで展開していくアニメの中では極めて意味を持っている事は前にも述べた。
 殺意がある訳では無く、女の子が女の子の頸を両手で絞め、頸動脈の脈動を感じる――という描写は、以前にも描いた事があった。宝塚映像版「学校の怪談/闇より囁くもの」(サブタイトルはアレだが神話作品では全く無い)。人が人に触れて体温を感じる――自分自身の実存を実感する――という描写を、直裁な性的ニュアンスを廃して描くには、これ以上のものを私には考えられなかった。

 

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Layer:08 Rumors - Battle of Rumors

 

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 さて問題のシーン。
 もう20年も前の作品だし、今更シナリオの書き手がガタガタとナイーヴな事を言ってもみっともないのは判っているのだが……。

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 事実として、シナリオの「直接的ではない描写で最大限に視聴者にショックを与え」ようという意図を、上田P、中村隆太郎監督が支持してくれて、アニメーターによって極めてリアルな画面が描かれ、演技者によって具象化された。
 誰もが、他者には絶対知られたくない様な欲望や秘密を持っている。それを見られたばかりかネットで喧伝されるという事が、どれだけ人の心に傷を負わせる事になるかは、20年前も、今になっても尚、変わらない。寧ろ現在の方が痛手としては拡大しているだろう。

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 先のエントリで述べた通り、別の筋立てで進めていた為、今話の為に若い男性教師というキャラクターを前振りを出来なかったのを悔やんだが仕方ない。

 ここで描写しているのは当然ながらありすの妄想であり、教師との会話も作品内事実ではなく、「いけない事をする」というダイアローグは当時はOKだと思って書いた。
 しかし現代のテレビ・アニメなら完全にアウトだ。こうした「アウト/セーフ」の基準は社会的な空気感で決まる。

 二人の会話と、ありすが実に控えめにだが、リアルに漏らす吐息を結果として放送時はカットされた。
 シナリオ、コンテも通っていたのに、アフレコが終わってからの時点で「このままでは放送出来ない」と局側の判断が出る。
 私の記憶だと、ビデオ編集(映像として完成させる最後の行程/上田Pが仕切っていた)のスタジオでの話し合いだったと思う。私はアフレコの東京テレビセンターにしか行っていなかったが、この時の話し合いは別の場所だった。

 当初はこの場面のカットという事になりそうというので、当然ながらそれでは話が繋がらなくなるので、ネゴシエーションが必要だと私も呼ばれたのだった。
 私は特撮方面の現場だと、結構監督や他ライターとぶつかるという全く褒められない態度をとった覚えはあって、それが業界内々で誇大に伝わっていた。
 なので、どうせそういう風聞持ちではあるし、上田Pは紛れもなくクリエイティヴ側なのだが、こういう局面ではメーカー・プロデューサーという立場になって辛いところだろうし、ここは私が憎まれ役として喧嘩するしかないだろうと思って赴いた。

 しかし、開口一番、猛然と抗議をしたのは中村隆太郎監督だった。
 私はかなり驚いて、口を挟む余地も無かった。

 この時の事は、後になって隆太郎さんと話した事がなく、多分自分が全部を被って作品を護ろうとしたのだろうと思っているのだが、本当にあそこまで怒っていたのか、私には判らないままになってしまった。あまり愉しい記憶ではないので、その後触れなかったのだ。
 結果として私は冷静になれて、カットしないで妥協出来る点を見出そうという立場にシフト出来た。これも隆太郎さんの意図だったとしたら、ちょっと恐ろしい程に老獪だ。

 局担当プロデューサー(当時)の岩田牧子さんは、我々がこういう場面を描くのは扇情的な趣味性ではなく、このアニメ・シリーズが描こうとしている物語に絶対必要な要素なのだという主張はなかなか理解はされずとも受け容れてはくれたのだが、そのままの放送は社内的にも出来ないと判断されていた。

 結果、テレビ放送版では男性教師とありすの会話、ありすの吐息の音声をカットするというのが妥協点となった。
 今となっては、リアルタイムでテレビ版を見た人よりも、ソフトや配信で完全版を最初に観た人の方が圧倒的に多いし、何を今更という事を書いているのだが、テレビ等メディアにはそれぞれ表現の許容値というものが20年前にもあって、今は更に厳しくなっている。
 殊更にエクストリームな表現を狙わずとも、思わぬところにタブーというものはあって、最悪の場合に発展してしまう事もある。

 だけど、何処かしらで創作者は「挑戦」をしなければならない、と今も思っている。

 この「lain」8話のあれこれについては、「そういう事もあった」と他山の石として読んで貰いたい。

 

 私は内心、とてもこの件ではダメージを受けていた。アフレコ時、浅田葉子さんがどんな気持ちで演じられたかという、ありすの演技を部分的にせよ放送出来なかった。浅田さんに申し訳なかった。

 

 台詞はカットされても、その後の「lain」とのやりとりで何となく情報は伝わっただろうとは思うのだが。それも私の願望でしかなかった。

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 そして「lain」。悪魔的な言動をする第3の玲音。

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 玲音 レイン lain ――表記は単なる書き分け・演じ分けの用途でしかない事は前に述べた。

 実に下卑た表情は、隆太郎さんのコンテに描かれた絵からの発展系。

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 清水香里さんは、玲音のターンとlainのターンは別個に録ったと思うのだが、それにしても実質的にこの回は3役を演じているに等しい。だが今話の頃にはもう信頼感があった。

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 玲音はそもそも、隆太郎さんのコンテ特有な、台詞の微妙な切り、間(基本的には不自然な)、というのが濃厚で、そこはきっちり鶴岡陽太録音監督に指示され、何度か録り直す事は屡々あったのだけれど、この頃になると隆太郎さんのコンテを描く上で、清水さんの演技、またスタジオでの在り様を見ていて、フィードバックしていたと思う。
 何かの折に話している時、何度か隆太郎さんは「清水香里ちゃんは~」(何故かフルネーム)と言及していた。こういう風に演じるだろう、といった期待が込められていた。

 

 

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Layer:08 Rumors - What I've done.

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 いたたまれず玲音は教室を飛び出すが、廊下にいる生徒達、校庭にいる生徒達からも非難の視線を向けられ、逃げ場を失っていく。

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「ありす、どこ? どこにいるの?」

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 ありす自身は教室にいるのだが、玲音は魂と肉体の乖離している状態が長くなっており、ありすの魂に会えると錯誤している。

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 屈み込む玲音。ガラスにひびが入る。シナリオにはない描写。隆太郎さんは心象風景ではなく、リアル・ワールドで物理的に起きている現象として描いている様に見える。

そして――、ワイヤードでは「もう一人の玲音=lain」が笑みを漏らしている。

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体育用具倉庫の前で体育座りしている玲音。

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このパン・ショットは背景と背景ブックをトリッキーに動かして擬似的に3Dの様に見せている。これは何度も見返したカット。

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拡張された携帯NAVI。アンテナと電源を強化している様だ。

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真相を知るのが怖くなっている。しかし、知らねばならない。


玲音は携帯NAVIでフル・アクセス。
と――、玲音の躯から夥しいエネルギーの爆発が起こる。

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体育倉庫がファイヤーボールに包まれていく。

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シナリオでは「背景が後退していく」という一行だったが、教室に戻る前にシナリオにあった「混乱」という柱の描写をここに持って来て、凄まじい力が発生した表現をするコンテと作画になっている。

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その炎の中で、玲音は抑圧されながらも進んでいく。

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一体「あたし」がありすに何をしたのかを――

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検索。

 

ここからの展開は、一度別の筋立てでシナリオ会議を通っていたのだが、私自身が納得がいかず、自ら申告して今話のものになった。その「前のヴァージョン」がどういうものだったか、今は全く記憶に残っていない。

プロのシナリオライターとしては、基本的に褒められる行為ではないのだが、同じ事をこの後もう一回だけやった。「神霊狩 -GHOST HOUND-」の第1話がそれだったのだが、この「lain」8話とは事情は全く違う。8話の場合は、玲音、ありす、そして視聴者に最大限のショックを体験させ、トラウマに残さないと終盤のドラマが弱くなるからだった。
神霊狩 -GHOST HOUND-」1話の場合は、原案の設定を早めに提示しておこうと組んだ1話が、中村隆太郎監督のコンテの生理には合わないと判断した故だった。一度決定稿までいったシナリオの要素を前半のみ使って、舞台とキャラクターをじっくりと紹介するものに改稿した。


そして玲音は、ありすのマンションに辿り着く。

 

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Layer:08 Rumors - Tatami

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 今話は、内容の重さから私個人的になのだが、「見返したい」と積極的に思えるエピソードではなかった。だが、「lain」というシリーズに於いて物語の上では勿論の事、中村隆太郎監督のコンテの超越度、岸田さんをはじめとする作画陣の描き上げたヴィジュアルの強烈な印象、撮影効果の恐ろしいまでの手の込みよう、そして勿論演技陣の魂の込められ方と――、全ての面に於いて極めて重要な回である事は間違いない。
 見返してはいないものの、殆どのカット、演技は私の記憶に深く刻まれており、20年後に同時視聴で見返した時の印象にも大きなズレは無かった。

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 玲音が授業中にワイヤードへ向かってしまうのは、これまでの様なポゼスト状態にあるからではなく、自らの存在への自信が揺らぎ、リアル・ワールドまでも歪めるものが何かを知らねばならなかったからだ。

 

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 このシリーズに於けるサイバー表現については、こういう前提があった上で、如何に独自なヴィジュアルを芝居の場として描くかについて葛藤をしながら考えだしてきた。
 最初に玲音(レイン)がワイヤードに自らの意思で入り込んだ時は、漆黒の虚無の中に1本道という、「1次元」世界で、カートゥーン的な表現で徹底的にアナログで描いた。

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 そして今回は虚無空間に畳の間が広がっている。殊更に意識した訳ではないが、2次元空間として広さを愚直に表現している。そこに、口だけの「ユーザ」が正座して並び、口々に勝手な事を喋っている。

 なるべく作画に負担をかけない様にと意図した表現だったのだが、撮影では大変な事にしてしまった。口パクは揃っていたらおかしい訳で、一人ずつタイミングをずらしているのだ。

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 並んで正座し、喋っているだけという表現は、今思うとだが、ネット・ユーザはそれぞれの条件(使用している機器、アプリケーション、ネット接続状況)によって幾ばくかの制限というものは受けており、それは今もあまり変わっていない。寧ろスマートフォン利用者が増えて、視野的広さの概念は寧ろ狭まっているかもしれない。なのでこういう表現はあまり陳腐化していないのだけれど、如何せん「畳」というものが日本人にしか伝わりにくいのは悔やまれるところだ。
 時間が無いからと、3Dオブジェクトを表現せねばならない状況で、中原順志君は「どうせフィルタ後で掛けるでしょ」と、720x480というフルサイズではなく320x240といったサイズでレンダリングをするという、普通はやらない様な荒技で対応してきたが、今回の3D畳はフルサイズでレンダーされている(ただの板にテクスチュア貼っただけのオブジェクトだからなのだが)。

 口だけユーザは、悪意ある噂、自己主張など様々な事を口にしているなかで、有意な情報(それが事実かは問題ではない)の言及も紛れている。
プロトコル6にはバグがある。このままではワイヤードに甚大な被害が及ぶ。
・あの子の部屋には毎晩、赤と緑の縞々の服を着た小さい人間が現れる。
・ナイツは実際にはいない。それはアメリカの大学生のジョーク。

 それらの声を浴びるレイン。本当に知りたい情報をノイズの海の中から拾うのは至難の業なのだ。


 絶対有り得ない仮定の話だが、もし今の時代にネットをカリカチュアして描くなら、憎悪の感情がもっと際立っている描写にせざるを得ないのかもしれない。

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 ぺちゃくちゃと喋り続ける声達にキレるレイン。
 すると、デウスの声が聞こえる。向こうから来てくれた。


 超口角レンズで被写体に迫る、という描写は〈私の認識ではだが〉アニメでは押井守監督が「うる星やつら」のコンテで最初に表現したと思う。元々は実相寺昭雄監督のウルトラ・シリーズ(「マン」「セブン」「怪奇」)以来に稲垣湧三、中堀正夫両キャメラマンが撮っていた、超クローズアップのオマージュだと思う。
 中村隆太郎監督は、そのキャリアからやはり出崎統監督の演出術には大きな影響を受けており、そこから自身のスタイルを創り上げていたが(これについてはいずれまた書くかもしれない)、「パトレイバー」の初期OVAでも一話だけだが押井監督のコンテを演出しており、押井さんからの影響もあったと思う。
 今は出崎演出話法も超クローズアップも、テレビアニメではそのオリジンすら意識されず普通の話法として用いられている。

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 さて、超クローズアップはよく見られる表現になっているが、そこからキャメラを急速に引くというトラック・バックはそうあるものではない。単なるズームバックではなく、レンズの歪みを反映させながら対象から下がる視点は、それを描ける人がいるという前提でなければコンテには描けない表現だった(今は3Dのトゥーン・シェーディングで、キャラクター・デザインによっては簡単になったかもしれない)。

 いよいよ「デウス」と、本格的に対話が始まる。
 しかしまず「神」の定義とは何かを問答する。
 つまるところ、彼はワイヤードの創造主ではないし、全てを思い通りにしている存在でもないが、どのゾーンにも存在を可能にし、若干の影響力を行使しているのだという。

 しかもデウスは意外な事を言う。
「ぼくは君さ」

 玲音はワイヤードが産まれた時から存在しており、リアル・ワールドの玲音はそのホログラムに過ぎないのだと。

 ホログラフィック宇宙論は90年代に斯界を騒がせた宇宙観だったのだが、この頃は既に「そんな考え方もある」程度な立ち位置であり、シリーズでもそこに深入りするつもりはなかった。近年、ホログラフィック宇宙論の再評価的動きがある様だ。

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 この時のセッションでは玲音は逆に混乱を増して立ち竦むしかなかった。

 しかし――、授業中のリアル・ワールドに戻ると、教師が冷徹な目で見下ろしており、周囲の生徒達の視線が玲音を貫いている。

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 ハッとNAVIを見ると「玲音はのぞき屋」という拡散メールが。

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 その情報はクラス全員に共有されている。

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 ここまでがA-Part。

 


 

 

Layer:08 Rumors - Not denied.

  静謐に、しかし視聴者の神経を確実に削っていくパート。

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 玲音がリアル・ワールドに帰還し自室から出ると――、
 

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 廊下の突き当たりに美香が立っていた。

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 食堂のある階下へ降りると――、何故か両親は並んで座っている。

 

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 イモーターは発売されている。

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 両親は玲音を見ようとすらしない。

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 玲音は冷蔵庫から麦茶をグラスに入れて――、
 以前、美香が同じ様な動作をしていた芝居の反復でもあるのだが、あの時はデカンタ型のワインを盗み呑む――という芝居だったのだが、やはり麦茶をただ飲んでいる様に見えてて、やや遺憾だった。

 

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  前回黒沢に問われた事、岩倉家の本当の娘なのか問われたと両親に、玲音は思い詰めて訴える。

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「おかしいよね、そんなの」と玲音は冗談として否定して貰いたがっている。

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 しかし――、両親は振り向きすらしない。


 玲音は気落ちし、グラスをすすいで部屋に戻ろうとすると――、

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 冷たい視線が玲音を貫いている。

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 岩倉家の中で、秩序だったものが壊れている。


 一方、学校生活の方にも異変が起きていた。
 ハイコントラストの登校場面バンク、玲音が自分の影の中に無気味な何かを見る場面の反復があった後――、

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 玲音に背中に迫る影。

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 肩を叩かれ振り向く玲音。

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 ありすと、その背後で不信の目を向けている麗華と樹莉。

「あたしは信じてないけど、玲音じゃないよね」

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「何の事?」玲音には全く思い当たる話ではない。

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 責め立てる麗華を諫めるありす。

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 玲音は何かとてつもなく悪い事、しかもそれが自分に関係している事を予期して脅え出す。

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 その表情を見て、ありすは「やっぱり違う。(悪い事をしたのは)玲音じゃない」と結論づけるのだが、「やっぱり」と思える迫真の表情を玲音は浮かべていた。

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 その時、ありすは学校に車で来た若い男性教師を見る。

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 ありすはこの教師に片想いをしていた。

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 恥ずかしくなって校舎へ走り出すありすを、玲音は茫然と見送るのみ。

 

 

 

Layer:08 Rumors - The Beginning of Collapse

 

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「Rumors」というサブタイトルは、最初に作成したラフ構成では4,5話辺りに想定していた。ネット・コミュニケーションをモチーフに物語を編むなら、そうしたエピソードは在って然るべきだった。
 ネットに流れる真贋の噂、本来秘匿されるべき個人情報や知られたくない趣味嗜好の曝露などは90年代中頃から既に発生していたが、2000年代初頭のP2Pファイル共有ソフト、特にWinnyの流行と、それを通じて感染する暴露ソフトでの個人情報流出が大きな事件だったのだが、もう今は言及される事も少なくなった。


 コンテ:中村隆太郎 演出:うえだしげる 作画監督田中雄一


 さて「lain」の物語を書く内に、このサブタイトルの話数はどんどんと後ろへ下がっていったのだが、物語の大枠と対比させた、個々のキャラクターを描く上でこのサブタイトルの持つ重要性が増していった為だった。

 

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 アヴァン部では、ウィスパー・ヴォイスで、「心をやすりに掛けられる様な思いがしたい? だったら決して目を背けないで」と語られる。
 これまで、特定の誰が誰に向けたかも判らない、ランダムな話法をしていたこのパートの語りが、今話ではストレートに視聴者へ語りかけている。これもラストを見据えた前振りになっていた。


 玲音は「ワイヤードの神」について調べている。
 最初はネット対戦ゲームで遊んでいるタロウへの聴取。

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 これを記している現在、スマホのソーシャル・ゲームではバトルロイヤル型のゲームが流行っているのだが、この頃そうしたゲームはあまり無くて、RPG型が主流だった。
 タロウはモンスターを倒しているのだが、シナリオでは「他のユーザ」(のアヴァター)なので、玲音はPK (Player Killer=別のユーザを殺す外道行為)を非難しているのだが、ちょっと直感的には判り難くなっているかもしれない。

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 前回尋問を受けた「橘総研」の事を思い出す。ワイヤードの神と関係しているのか――? 
 

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 そこはアダルトサイトだ。だから本来玲音は入れない筈なのだが――、

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「無気味の谷」という言葉が作られる遙か以前のそれだ。
 中年男性ユーザとの会話は端的に、次世代ネットワーク・プロトコルの「噂」についてのもので、「lain」という物語の柱になる設定なのだけれど、画面ではセクシーな電子女性がポージングを変えていくというシュールなものになっている。

 

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 この回の演出をされたうえだしげるさんと製作後にメールでやりとりをした時、このシーンが撮影に大変な負担を掛けてしまい、後で恨み言を言われたという話を伺った。
 透過光アニメーションが大変な事になっているのだが、この回はこの場面だけではない。

 

 インターネット・プロトコル IPについては、5話で既に玲音が「早く次世代のプロトコルが――」というダイアローグで述べているのだが、いよいよ本格的に言及が始まる。

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 この回は「岸田玲音」(と我々内で呼んでいた)を多く観られる眼福回でもあるのだが、それは岸田隆宏さんでなければ描けない、非ノーマルな玲音の描写が頻出するが故からだったと思う。

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 ところで「lain」から20年後の今、一番信じられない事は、未だにIPv6に完全移行出来ずIPv4が依然幅を利かせているという事実だ。
 端的な事を言えばIPアドレス枯渇問題というのは20年前、いやもっとずっと前から指摘されていたのだ。石油のそれと同じで「もう無い」「あとまだ少し」「いや実はまだ多少」が延々とループしながら今に至っている。

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lain」を書いている頃、すぐにIPv6時代は来るだろうと予想してのIPv7の想定だったのだが、数年前、中国がIPv9(IPアドレスは256bit長)を「既に整備した」と発表して世界を一瞬驚かせたが、全くその後が無かった。
 いずれにせよ、IPは単なる通信する為の「手順」を送受双方で確立する「手続き」でしかないのだが、ネットでの通信には必ずや介在し、個々のクライアントにアドレスを配置するという在り方は見方によってだが「ネットを支配」する事に通じる。
 だからとて、それによって何処か特定の企業なりが利益を得るものではないのだが、例えばビッグデータという近年価値観を大きく変えたものがそうである様に、個々の面では利害は生ぜずとも、恣意的な「操作」はし得るかもしれない――というのは、そう突飛な虚構設定ではない。
 しかし「lain」の物語でマクガフィンとしてプロトコルを持ち出した時、上田Pに再び猛烈な反論に遭った。
 彼は彼なりにUNIXを勉強しており、IPを虚構のモチーフにするなど考えられなかったというのは判らないではなかったが、今回はこっちも引かず、怒鳴り合った末にこっちが押し通した。私と上田Pが怒鳴り合ってる間、中村隆太郎監督と安倍吉俊君は気まずそうに黙っていただけだった。確か中原順志君も居て、「まあアリなんじゃん?」と言ってくれた気がする。

 

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そして玲音は、「第7世代プロトコル」を整備しようとしている橘総研を訝しむ。