今年2018年が「serial experiments lain」放送20周年であるなら、「TEXHNOLYZE」放送から15周年という事になる。
これまた公式では何の動きもなかったのだが、コミケで昨暮から3回連続でスタッフも巻き込んだ同人誌(というよりは自主製作ムック)が作られた。極めて稀少な「TEXHNOLYZE」ファンの実存をしっかりと確認出来て、今年良かった事の一つだった。
「serial experiments lain」のネット同時視聴会が終わって暫くしてから、「TEXHNOLYZE」の同時視聴会も開催された。「lain」よりは人が少なかったが、数少ない熱心なファンが再び同時に鑑賞し、ツィッター上に実況が流れた。
“ルクスルクスこんにちは”同人誌の2冊目で、私は浜崎博嗣監督と一緒に取材を受けたのだが、この時は放送時以来見返していない状態で、あまりに記憶から消えている事が多く、これは見返さないとと思っていたのだが、同時視聴会があってやっと見返す事が出来た。
このシリーズに於ける私には、上田耕行プロデューサー原案のあまりの危険さに、私なりに「しかし日本のアニメ視聴者に向ける作品なんだから」という塩梅と、「本当にやっていいんだな」という野心が奇妙に交錯していた様だ。
私なりの覚悟と計算があっての構成任務だったが、15年ぶりに見返して思ったのは、やはり「一線を越えていたな」というものだった。内心「越えていたかもしれない」とは思っていたのだが、やはり越えていた。
私自身は勿論だが、30分シリーズの話法として「ここまで行ってはいけない」という多山の石としての動かぬ基準ともなったと思う。
残酷描写や台詞の少なさはともかくも、誰が殺されたのか字幕が入らないと判らないのでは「意図しない曖昧さ」しか視聴者に与えない事になる。「TEXHNOLYZE」のシナリオはこの点に於いて、はっきり失敗をしたと断言して差し支えない。
ファンには知られているが、このシリーズのDVDには特典として「死亡字幕」なるものを再生時に表示させるオプションがある(廉価ボックス版には未収録)。これという特典映像も作る余裕もない中で、ソフト・オーサリング時にコストを掛けず(SRTテキストを作成するだけ)追加出来るジョークとして秀逸――という評価を受けていた。この字幕は上田Pが作成している。
序盤から刺客が迎え撃たれるという場面があるが、リアル系のキャラクターで髪型も髪色も概ね変わらぬ使い捨てキャラクターが、どの組織に属していたのかをいちいち説明台詞でフォローするのは無粋。シナリオを書いている時点ではそう考えていた筈だ。
しかし字幕を入れて観てみれば、ストーリーを掴むストレスをずっと軽減出来る事を私自身が身を以て体験してしまった。
これは作劇がネタに負けたと言わざるを得まい。
「TEXHNOLYZE」の描いた物語自体は、完全に完結した虚構であり、当時の私はある種の創作神話を意図していた(構造的にはハードボイルドだったが)。吉田伸氏、古怒田健志氏、高木登氏(これがアニメ・デビュウ脚本)らと共に、筋とキャラクターは単純ではないベクトルを形成する事が出来た。この点に於いては満足している。
映像作品としての濃密な完成度は、ひたすら浜崎博嗣監督によるもの。ともすれば時代遅れ、古臭いモチーフに陥りかねない闇社会抗争劇を、主人公に視聴者を寄せて不可解な世界を「体感」させる事に成功した。今尚'(稀少ながら)熱烈なファンを持てるのもそれ故だと思っている。
シリーズのモチーフとなっていた、装置による人体改造と、それに伴う意識の変容という事については、この数年俄に注目されてきた「トランスヒューマニズム」とかなり近接しているのは皮肉に思っている(昨年の米大統領選で泡沫ではあるがトランスヒューマニスト党首が出馬した)。
トランスヒューマニズムの是非、というよりも一般的な直感としての嫌悪感を一旦脇に置いてみると、トランスヒューマナイズド(などとは呼ばれないだろうが)がネットを介した情報をAI処理するのは至極自然だ。肉体を欠損させたくなければチップをインプラントする事で済むのも簡便だ。
だが――、人の進化とはそういうものなのか。
人性を高める事とはやはり掛け離れている様に感じる。
勿論、トランスヒューマニスト達が掲げる宣言には、単なる利便性ばかりではなく、人同士のコミュニケーションを含めて差別や偏見をなくしていくという理想も語られてはいるのだが。
有り得ない仮定だが、もし「TEXHNOLYZE」が近年作る企画であったなら、このトランスヒューマニズム問題にどっぷりと首を突っ込まねばならなかっただろう。
15年前に作っておいて良かったと思う。
来たるコミケで、一旦終了となる“ルクスルクスこんにちは”「We Are Texknolyzeds」が頒布される。
【宣伝その8】
— 石林グミ??1日目(土)東J-21b (@__stein) 2018年12月21日
ついに来週土曜!冬コミ発行テクノライズ15周年記念同人誌vol.3!
表紙は浜崎博嗣監督(@hamasakina)による夢のオールスターイラスト!
監督のTwitter掲載画像ギャラリーに加え未公開イメージボード集2も掲載!
豪華ゲスト/資料集と合わせ必見!
心・身・誠・救・済!#TEXHNOLYZE15th pic.twitter.com/Ajf8Sy5hbE