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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Cyberia Layer_2

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 WASEI "JJ" CHIKADAさんの新譜「Cyberia Layer_2」は多くのゲストとのコラボで、もう完璧ガチなゴリゴリのフロア・サウンドなのだけど、ちょこちょことサンプリングで「lain」の世界観が透けて見えてきて、紛れもなく放映当時、直後の「Cyberia Mix」からシリアルに繋がっている。
「Duvet (ScummV Remix, JJ's "Another”Edit)」の入ったEP「bootleg Mix」(『Layer_2』購入者にもDLCが用意されている)は、その前に入っている「Cyberia Layer_2 JJ's bootleg DJ Mix」が凄い。凄まじい。56分ノンストップのDJ Mix。
 40hz以下を再生出来るシステムで大音量でないと、「クラブサイベリア」で体感出来たサウンドを再生は不可能だが(普通の家庭では絶対に無理)、ちょっと気分を上げて仕事をしたい時には最適なBGMになってくれる。
 そしてまだ一週間も経っていないのに、既に「懐かしさ」すら感じてしまっているあの「クラブサイベリア」の宴の熱気を活き活きと甦らせてくれる。
 リリース情報はWASEI "JJ" CHIKADAさんのアカウントをチェックされたい。

追記

 2018/07/14 0:00より、ウェブサイトにて通販が開始されている。

 


lain」シリーズで、クラブという場を主要舞台の一つにしたのは、本ブログでも記したと思うが、家の自分の部屋、家族と過ごす居間、通学の電車、学校――と言う、閉じたサイクルのルーティンから逸脱した場所が欲しかったからだ。
 だからと言って、中学生のドラマなのに渋谷のクラブ、っていうのはあんまりな飛躍だし、普通の監督やプロデューサーなら「幾らなんでも」と止められたかもしれない。

 当時のネット民というのは、基本的には自室に籠もる性質の人の方が圧倒的に多く、オフ会に積極的に参加する層は限定的だった。
 今でこそクラブ・イヴェントもSNS有りきで告知されるのだろうが、20年前は水と油の関係で、だからこそフィクションとして結びつけた。

 実際に舞台の一つとして設定してみると、現実世界とワイヤード、その両方に同時に存在している玲音が、その中間域としてコミュニケーションをする場としては実に有効な選択であり、サイベリアの場面は短くではあるが当初の想定よりは遙かに多くなった。


 リアルとワイヤード、アニメと現実、その端境がクラブだという意味では、先日20周年記念としてファンの方々が幾多の困難を乗り越えて実現したイヴェントにて、多くのアニメで起きた事の再現――トイレのドア一面に「預言を実行せよ」と朱書され尽くした様(男女トイレをそれぞれシオドアさんとカケラ星さんが10時間かけて書かれたそうだ)や、ハウスミストレスがアクセラを配るといった「2次元と3次元の領域が崩れる」感覚も、まさに20年前のアニメでやろうとしていた思想とまさに通底しており、恐らくあの場で、あの出来事の数々を誰よりも驚愕していたのは私だったのではないか。

 JJというDJのキャラクターも、「玲音(レイン)に敬意を抱き、大人として接してくる人物」として、玲音をより膨らませる事が出来た。
 その声を、近田和生さんという実際にDJとして活動されている方が演じ、後に「Duvet」のクラブ・ミックスを作るのだから、「lain」のリアル世界への音楽面での侵食は、JJが嚆矢だったのだと言えよう。

 

 仲井戸"CHABO"麗市さんの劇伴にも、実はたつのすけさんによるドラムンベースっぽいサウンドのトラックもあったのだが、そこばかりではなくミニマルなサウンドを好む中村隆太郎監督の意向で、多くの楽曲が2nd Unit Musicこと竹本晃さんに毎回発注されていく。クラブ場面の音楽をどうするかという時、隆太郎さんは「ピンク・フロイドみたいな」といった無茶苦茶を言っていた様だ。
 そんな事言われてもなぁと落としどころで作られていったのが「Cyberia Mix」の竹本さんのトラックで発展しており、今や入手困難な限定CD,CD-ROM「Bootleg」にサントラは収録されていた。
 実のところ3rd Unit Musicとも呼べる存在だったのは、音響効果の笠松広司さんで、効果として発注されたのに、タブラのソロ&持続音みたいな、視聴者なら「あーこれこれ」と思うアイコニックなサウンドを提供した。
 後の「神霊狩 -GHOST HOUND-」では、劇伴も含めて笠松さんが担当する。


 さて話を戻すが、「lain」のシリーズに於いてクラブとクラブ・ミュージックは、当初の構想には全くない要素だったにも関わらず、シリーズが終わるまでには、実に重要な要素の一つになっていた。
 9話の「Play Track 44」といったダイアローグは、だから書けたのだった。

 まあしかし、以前にも書いたが、2クールあったらもっとサイベリアの描写も、JJのDJプレイも描けたのに、と詮無い事を思ってしまう。

 だが、JJは今尚バリバリ現役。聴きに行きたい、踊りに行きたいと思えば可能なのだ。
 そして、オフ会もクラブも遠慮したいという、「lain」ファンでの寧ろ主流な人達にも、インディーズのCDとして漏れなく届けられる。

 放送から20年経ったマイナーなアニメ、見た人からも「好き嫌いが分かれるだろう」と必ずや言われるアニメなのに、今尚ムーヴメントが地下水脈として存続していた事には、驚きを禁じ得ない。

 


 あれこれとあって仕事が逼迫して、最終話の回顧どころかキャプも録れずにいたのだが、やっと少し余裕が出来たので、ぼちぼち取り掛かっていく。