リアル世界では全く面識無い同士が、ネット内で共謀する悪意あるハッカー(クラッカー)という存在は実際に実例は無かったものの、「いても不思議ではない」とは思っていた。
デウスを信仰し、様々な意味のある無しに関わらずミッションを遂行するオンライン秘密結社の名称を「東方算法騎士団」にしようとしたら、上田Pから猛烈なクレームがついた。「何で駄目なの?」「ダサいから」
全く納得がいかず抵抗したが、「ダサい」という「感覚」は変えられず。
仕方なく妥協点で、劇中では「ナイツ Knights」とする事にした。
知識がある人には容易に想像がつくだろうが、全く異なる部類から同士の引用なので、判らない人の方が多いとは思う。
アレイスター・クロウリーが後年に属していた魔術カルトである東方聖堂騎士団 Ordo Templi Orientis(略称 O.T.O.の方がオカルト界では知られる)と、ラムダ算法騎士団 Knights of the Lambda Calculusという、概念上のハッカー「集団」の名称を掛け合わせた。
O.T.O.の方は日本でも「知ってる人は知っている」もので、クロウリーの存在は大きいものの、魔術カルトの中ではそう大きな位置にはない。ただ「東方」という名称は「lain」の設定には都合が良かった。デウスは日本人だしナイツのメンバーも殆ど日本人だっただろうから。
この「東方」はあくまでギリシア、ローマから見ての東であって、古代オリエントに於いて中東の事を示していたのだが。
ラムダ算法(微積分)騎士団については実際に存在する組織ではなく、Lisp, Schemeといった言語を至高と考える人々の事をテンプル騎士団に模して揶揄した表現だ、と私は理解しているのだが誤認の可能性もある。何しろWikipediaでも全く細かい情報はないばかりか、説明事項には「日本のアニメで名前をもじったものが登場した」といった事が書かれているに過ぎない。
私が当時この名前を知ったのは「サイベリア」か、何らかの本の一節からだと思う。
今話では三人のナイツ・メンバーが登場するが、当然これだけがメンバーではない。今回のオペレーションに携わったのがこの三人だった。
最初に登場するのはこのセクシーなセクレタリー、
ではなく若いエグゼクティヴ。
異様にセクレタリーの描写が執拗なのは、シナリオではなく隆太郎さんのコンテ。
岸田さんが描くセクシー女性の表現は、「lain」の後に中村隆太郎監督と岸田隆宏さんキャラクター・デザインで手掛けたナンセンス・アニメ「COLORFUL」(1999)を今となっては彷彿させる。
隆太郎さんが亡くなって、初監督作品だった「ちびねこトムの大冒険」(1990)のスタッフの方々が「プレイバック中村隆太郎」というイヴェントを毎年開催されてきたのだが、私が初参加した時に上映されたのが「COLORFUL」全話。ちゃんとTBSから許諾を受けられての上映であった。スクリーンに見入ってしまうと、到底故人を悼むにはアレな笑いが込み上げてきて困った。
中村隆太郎監督は暗い作品しか作らなかったというイメエジを抱いている人は多いかもしれないが、決してそんな事はなかったのだ。「魔法使いTai!」TV版でも一話をコンテ・演出していた。
セクレタリーが「イモーター・コンソーシアム昼食会のお時間です」という台詞を言うのだが、この「イモーター」はこの頃私が書いた短編小説のタイトル。これを収めた短篇集も長らく絶版になってしまった。
校正前の初稿だが、ここに置いておく。