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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:07 Society - His name is "RAT".

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 玲音とワイヤードの脅威となっている「ナイツ」なる組織とは何かを明かすのが今話。
 冒頭のヴォイス・オーヴァーは、「かくしてネットではデマゴギーが成立するか」について。

 コンテ:中村隆太郎 演出:松浦錠平 作画監督:丸山泰英

 

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 ナイツに爆破された玲音の部屋の壁の穴からは、ケーブルやチューブがはみ出している――と確かにシナリオには書いたが、まるで臓物の様な描写。

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 玲音は今はモラトリアム状態で、ぼんやりとチャットしている。
 虚空にもモニタ表示が浮かぶ仮想スクリーンの描写は、どういう理由があったかも忘れてしまったが、どうしても「lain」のNAVI描写で入れたいと主張した。その頃ヘッドアップ・ディスプレイは飛行機のコクピットにあるくらいで、プロジェクションするにも何らかの媒介が無ければ投影は出来ない。
 中原順志氏と上田Pが試行錯誤して「これなら」と作り上げたのが、波形モニタなど図形を表示させる不定形なヴィジョンが幾つも浮かぶ――という図だった。

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 玲音は「ワイヤードでは自分じゃなくなる」と、強いレインを区別化している。
 と、通話の相手に促されて振り向くと――

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 壊れた美香。壊れる前から美香は度々玲音の部屋を覗いて様子を見ていた。ぶっきらぼうなだけで、内心は「妹」の事が気になるくらいには愛していたのかもしれない。

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 しかし人間の言葉、思考理論を失った美香はドアを閉じる。

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「お姉ちゃん、最近様子が変になっちゃった」
 そう言っている側の仮想ウィンドウで「警告」サイン。
 ナイツにパラサイト・ボムを仕掛けられて以来、玲音のNAVIはセキュリティを強化している。

 

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 さてここで「ねずみ」というキャラクターが登場する。

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 ナイツを、人間のキャラクターとしていきなり登場させるのもつまらないと考え、ナイツに加入したがっている人物をエピソードの細い縦軸にしようという意図だった。
 バックパックにデスクトップ型NAVIを背負い、ヘッドセット・ゴーグル型ディスプレイを装着して、外側の視界(ビデオカメラが頭部についている)とオンライン状態のワイヤード画面を常時重ねて見ているという、「常時接続状態」の変人――。

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 そんな名前にしてしまったからか、岸田隆宏さんのデザインで描かれたねずみは、絶対近寄りたくない変人になってしまった。
 千葉繁さんに演じて戴いたからだと思うが、意外にも人気のあるキャラクターとなっていて、同時視聴会ではちょっと驚いた。

 

 前年「ゲゲゲの鬼太郎」4期に一話だけシナリオを書いていた(「髪の毛地獄!ラクシャサ」。コンテ・演出は「lain」9話のコンテを別名義で務められた角銅博之さんだった。

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 で、この4期のねずみ男を演じられていたのが千葉繁さんで、私は喜び勇んでねずみ男の台詞を、息継ぎ無しの喋りまくりに書いたのだが、ちょっとこれはやり過ぎだったとオンエアを見て反省した。

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 この常時接続男の名前を「ねずみ」にしたのは、千葉さんに演じて戴く前提だったからに違いないのだが、キャスティングを決め打ちしてキャラクターを作るなど、そんな不遜な事をやったのだろうか? 全く記憶がない。もしこのアフレコ日に千葉さんがスケジュールが合わなかったらどうするつもりだったのか……?

 ねずみはワイヤードで、未だ見ぬナイツのメンバーに自分を加入させてくれと延々と訴え続ける。

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 シナリオでこのねずみの見ている映像を「実写加工?」と記したのは、前話で述べた様に、少しでも作画の尺を軽減させ得るか、私からの「提案」であった。
 シナリオが決定稿になってから暫くして、安部プロデューサーから「小中さんに作って貰ってと隆太郎が言ってる」と連絡が来る。

 私は「判りました」と取り掛かったが、まだ最終話までは書いていない時期だったと思う。この頃の私のスケジュールがどう考えてもおかしい。

 さて、なぜ一介のシナリオライターが「実写の撮影・加工」を請け負おうと即答出来たのかについては、やはり映像部分製作を担当した9話回顧の前に書こうと思う。

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「ねずみヴィジョン」は眼前の実景とワイヤードのサーチ画面が重なっているが、実写加工部分は実際のセンター街で普通の民生用DVカムを使い私一人で撮影した。なるべく人の顔を映さない様に撮ったので、画角はグラグラ。
 サーチ画面は私が動かしたパーツもあるが、多くの黄色い四角のバナーのテキスト表示ブロックが浮遊する表現は、確か「Hot Sauce」という名前だったと思うのだが、当時実際にあったサーチ・エンジン。試験的に公開されていた。関連するリンクの中をマウス操作でぐいぐいと3Dで検索するというものだったが、英語しか対応していなかったし試験的な運用だったと思う。起動するまで滅茶苦茶に重く実用性は殆ど無かったが、何しろ面白かった。暫く前にこれの事を思いだしてGoogle検索したけれど、こんな検索エンジンがあったという記述すらどこにも見出せなかった(名前は『辛いソース』だし)。
 尚、当時のネット検索は国内はYahoo(自己登録)が一般的で、サーチ・エンジンとしてはAlta Vistaがメジャーであり、Googleの登場はやや後になる。

 VRゴーグルは近年商品化が活発になったが、この頃にもあるにはあった(から描いている)。しかし外を重ねて見るというのはAR(拡張現実)と思っていたが、これはスマホなどのデバイスの画面を使うもので、ゴーグルで見る場合にはMRというらしいと最近知った。Mixed Reality 複合現実。

 MicrosoftWindows Mixed Realityという技術プラットフォームを提供しているので、今後より一般化していくかもしれない。ねずみは増えていく……。