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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:11 Infornography - Inforno

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 冒頭からアヴァン・タイトルのバンクにインサートされる新作カット。
 玲音が自らデヴァイスになっていく通過儀礼

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 ケーブルを結線し、スキンパッドも装着。

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 サブタイトルはこれまでの全てをマルチで見せきる野心的な試み。

 

 コンテ:中村隆太郎 演出:松浦錠平 作画監督:丸山泰英

 

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 シナリオ本には総集編にする事を私が提案したと書いてあるのだが、当然ながらそれは後押しをしただけに過ぎず、そうするしかない状況があったからだ。
 作画分量は減るにしても、新作は半分強あるし、画面処理、そして音響は全て普通の一本分(加工関係では通常回の倍)の労力はかかるので、中村隆太郎監督も担当スタッフも全く楽になってはいない。

lain」はオンエアに間に合わず放映出来ないという事態も無く、私が知る限り放映終了後にリテイクなどもしておらず、定められた期間でメインは勿論だが、現場の制作スタッフ、各協力会社の尽力された成果だ。
 私という脚本家が直接見聞出来る範囲は、アニメの製作プロセスに於いては極めて限定的な領域でしかなく、シリーズを作る上では各部門各部門に於いての創意や苦闘があった訳で、本ブログの記述はそういうものだと読んで戴ければ幸いだ。

 私が関わったアニメの中でも、プロデューサー、監督、キャラクター原案(事実上のコンセプト・アーティスト)、飛び道具的デジタル画面製作(本当はゲームのディレクター)の距離感がこの作品ほど密接だった経験は無い為、様々なエピソード記憶を持っているのでこうして書けている。

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 さてこの11話の前半A-Partは、「Re-Mix Version」というコンセプトでここまでの話数の映像をモンタージュする。「lain」なので、視聴者は物語性を見出し難い構成。
 シナリオは11分の尺分を埋めるテキストをダラダラと書いているが、これは私自身が後半のシナリオを書く上で、通常の22分の尺感覚を掴む為にアリバイとして記したものでしかないのだが、読み直して見るとここまでの話数の自己批評的な観点もあって、「この時はこう考えていたんだな」という記録にもなっていた。
 内容については「シナリオエクスペリメンツ レイン」を是非お読み戴きたい(ダイレクト・マーケティング)。

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 リミックスは上田Pが担当。
 インサートされるテキストの文面も全て彼による。
 ゲームの「Make me sad, Make me mad, Make me feel alright.」やシリーズの「Close the wold, Open the next.」といったキャッチ・コピーも彼によるもので、私には意味はさっぱり判らない。
 
 ともあれ日本でlainの映像を誰よりも見て知り尽くしているのは彼だろう。単なる抜粋ではなく、過半数のカットはビデオ再撮影、After Effectsでのフィルタ処理などの加工を施されている。繋ぎ(編集段階)でInfernoを使ったかどうかは覚えていない。そろそろノンリニア編集が広まり始めていたが、放送映像用特殊効果機器の最高峰のInfernoは、私がディレクター時代、1回だけ使う機会があった。1時間当たり10万円の価値は間違いなくある。多くの特殊な効果や編集をほぼリアルタイムで作れてしまうものだった。

 今話のサブタイトルは Inferno(地獄)と Pornographyの掛け合わせた造語なのだが、ここでInfernoという語を持ち出したのは、内容的に記憶の地獄となる印象を想定してのものであると共に、特殊効果機器のInfernoというものも連想の中にはあった。

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 千砂の飛び降り現場にいる玲音、一度だけ一緒に帰った時の場面が新作カットだが、後者はこれでもかとフィルタが掛かっているので違和感がなく、こういう場面があったと錯覚させたかったと思う。

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 ザッピングで混入するニュース風実写。表示されている時刻は、放送時のリアルタイムに合わせられている。

 玲音が人工リボゾームのホムンクルスなのかは、英利が言っただけで私は決めつけてなかったので、このロールインするニュース内容には放送後、書きすぎだとクレームをつけた。

 

 

 改めて見直して「ナイス!」と思った繋ぎが、十字路に立つ玲音と雑踏の中に立ち尽くす玲音を重ねたところ。

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 モンタージュの終盤は明らかに、ありすのカットが多くなってくる。
 視聴者に何を感じさせたいか、意図が暗に伝わっていく。

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シリーズの終わりで玲音は――

 

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 実際にはこの時制よりもうちょっと早い時期――、7,8話辺りのホン読み会議の時だったと思う。
 私は予定を1時間勘違いしてトラスタに来てしまい(そういう事はままやってしまう)、1階の会議室兼試写室でぼうっと時間を潰していたら、私を見掛けたスタッフが中村隆太郎監督を呼びに上へ行ってくれたらしく、隆太郎さんが降りてきてくれた。

 二人のみで話すのは、忘年会以来。私はこれ幸いと、シリーズのエンディングで玲音をどう描くか、率直に意見を聞いた。
 本ブログで書いてきたとおり、拳銃で自分の喉を撃ち抜くゲーム版ムービーのラストを、実のところ私は1話を書いた時から既に変えるつもりだったのだが、全くゲームと乖離してしまうのも本意ではない。

 


 隆太郎さんも、エンディングについて「そういうんじゃない方がいいなぁ」という見解だったのだが、これはかなり控えめな表現だったと後で判る。
 単に好き嫌いという軽い見解ではなかった事は、製作が終わってから知った。

 とても重い経験を、隆太郎さんと奥様はしておられたのだが、それは私がここで軽々に書ける話ではなく、書く資格を持たない。

 

 また隆太郎さん自身の事もあって、「神霊狩 -GHOST HOUND-」については、この「lain」回顧の様にクロニクルを書く気には当面の間はまだなれないだろう。
(ざっくり回顧は『このアニメ映画が見たい!』という本にて記している)。

 

lain」は20周年という記念の年であり、20周年をファンの方々が祝ってくれるというワイヤードの一部の空気感が出来ていたから、私自身殆ど20年振りに全話を見直し、覚えている限りの事をここに書く事が出来ている。
 良くも悪くも、記憶が風化しつつあるのかもしれない。

 


 ともあれ、シリーズ版「lain」の結末――、玲音がどうなるのかについては、ムービーのラストではなく、クリアしたユーザだけが体験出来る事を、テレビ放送で試みようという考え方に定まっていき、上田Pに話して了承を得た。
 しかし、ゲーム版のあのボーナス・イヴェントに匹敵するだけのイヴェント性を如何に生み出すか――。シナリオでどうこうの部分ではないなとも思い始める。
 この後については、最終話の回顧で記そう。

 

 

先達への畏敬と独自性の確立

 

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serial experiments lain」は他に例がない様な独自な内容・表現をする野心で作っていたが、テレビ・アニメという枠なのだから何れかのジャンルには区分される。
 サイコ・ホラーと思われるのは個人的には心外なのだが(怖がらせようという意図で作ってはいないので)、表現から言えば拒めまい。
「プレゼント・デイ プレゼント・タイム」と宣言しているのは、今(1998年)の日本を違うフェイズで見たら、という意味であり、近未来SFではない。

 

 テレビ・アニメで斬新なサイバー表現が描く事が可能なのだろうかについて悩み検討した事は本ブログで幾度も述べてきた。
 中村隆太郎監督が選んだのは、普通に原画として描き、セルに仕上げて撮影する、コンヴェンショナルなアニメーション表現だった。勿論そこには幾多のデジタル効果やノイズ付加などの処理を経るが、透過光という出崎統監督が開拓した技法での表現も独自なものへと進化させた。

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 アニメーターによって描かれるという事で、徹底的にメタファーとしてサイバー空間を具体的な映像にし得たのは、コンテ、演出、作画、後処理と全てを中村隆太郎監督が一元的に統括したから出来たのだと思う。

 

 

 伊藤和典脚本、押井守監督の映画「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」(1995)を、越えられはしなくとも、テレビ・シリーズとしては独自な表現を提示出来たかな、と思っているのだが、実はシリーズとしての物語に於いては、このコンビ作の別の作品が私の前には大きな存在として在った。

 シリーズ版「lain」では、ドラマを描かねばならず、玲音と対峙する存在が必要であり、普通の人間では物足らないのでそれを「ワイヤードの神」とした訳だが、この在り様は「前に見たことがあるぞ」と思った。


機動警察パトレイバー the Movie」(1989)という劇場1作目がそれだった。(※岸田隆宏さんも原画参加されている)

 

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 パトレイバーの映画では1作目が好きだ、という話を「神霊狩 -GHOST HOUND-」の時に岡真里子さんとした(同意見だった)覚えがあるのだが、かなり影響も私は受けていた様だ。
 既にこの世にいない、本編にキャラクターとしては登場しない最終敵が仕掛けた、自然災害を人工的に拡大するテロ計画に立ち向かう特車二科を描くストーリーで、異なる見方はあるかと思うが、この映画のヒーローは千葉繁さんが演じたシゲさんだった。
 このテロ計画は、篠原重工製品のレイバーにインストールされたHOS(HobaのOS)に仕掛けられていた。

 

lain」に登場するコンシューマ用OSはCOS (Communication OS)。
 エンタープライズ仕様はCopland OS Enterprise。

 

 

 さて、ネットを介して現実世界に何らかの影響を及ぼそうとするなら、まずは基本システム OSを狙うのは当然の選択だ。
 だから「lain」では特定OSに囚われずネットに接続するには必ずや必要な IP インターネット・プロトコルというネットのインフラを狙う事にした。プロデューサーと喧嘩をしてまで固執したのは、そうでないと独自性が保てないからだった。

 そして、「神」。
 パトレイバー映画ではキリスト教のモチーフを多用してイメエジを統一していたが、本作では特定の宗教観には極力近づかない方針にした。
 そして、死亡したまま亡霊の様に扱うのではなく、「生きて」喋るキャラクターとして登場させねばならなかった。

 英利政美というキャラクターは、現れる必然が絶対的に在った。

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 さて、実際に登場させてからだが、中村隆太郎監督に何度も言われた事がある。
 それは、「英利の考え方には一理あるよね」という事で、彼の立場としての極論を言わせていた私は当初面食らったのだが、徐々に「そうだな」と思う様になった。

 前後して取り組んでいた「ウルトラマンガイア」での、前半の好敵手=藤宮(ウルトラマンアグル)の地球原理主義(今で言えばエコテロリズム的な考え)も、頭の中の何分の一かでは「――というのも正論だよな」と思って書いていた。

 

 

 

 

Layer:10 Love - Wrapped with wires

 

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 ナイツのメンバーを暴き出す為に、玲音は自らの身体にワイヤーを巻き付け、唇にワニ口クリップをつけてまでワイヤードに没入せざるを得なかった。それはしかし、身体の機械化というよりも、自縛というメンタリティに陥っていた精神面の方が大きい。

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 MIBの二人が玲音の部屋に訪れてくる。

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 林とカールには態度の違いが見られる様になっている。

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「どうしてあんな事をしたの……?」

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 玲音は、自分が暴いたナイツのメンバーが抹殺されている事を知っていた。

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 カールは静かに、ワイヤードの神を崇める者達は除去されるべきで、世界中の彼らの仲間がその任務を遂行中だと言う。ワイヤードに神など必要ないのだと 
 ワイヤードは特別な世界ではあってはならない。あくまでリアル・ワールドのサブシステムであるべきだとも。

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 シナリオでは、玲音はもっと強く異議を申し立てているのだが、この描写では強い言葉は言えまい。岸田さんの設定画で「ぐるぐる玲音」と命名された状態では、玲音の意識は半分ワイヤードにあるのだ。

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 林は冷笑的に、玲音もワイヤードでは極めて異質な存在だが、“処理”されずにいる。どうやら「神の御加護」があるらしいと言って出て行く。

 カールはしかし、違っていた。

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 静かに、いずれ英利政美の残留思念プログラムもプロトコル7から除去されるだろう。
 我々にはあなたが何なのか判らない。
 自分の目を見せて言う。
「私達は未だにあなたが理解出来ない。しかし私は、あなたが好きだ。不思議な感情ですね、愛というのは」

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 玲音にとっても、これが自分が望んだ結果なのか判らない。
 目を閉じて、ワイヤードに没入する。

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 だがそこは岩倉家前の坂道。
 ここがリアル・ワールドではなく、英利と会う仮想世界なのだとはっきり判るのがこのカット転換。

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 荒々しい「線」のエフェクト・アニメーションが、風の強さを実感させる。


 玲音は英利に訊ねる。「どうするの? お祈りする人がいなくなっちゃったよ」

 英利が姿を現す。ワイヤードなので、浮遊するのも現れるのも自在なのだ。

 英利は、一人でも神を崇拝する者がいれば神でいられると言う。

「誰?」

「いやだなぁ、君だよ。君が君でいられるのは僕のお陰だ。君はもともとワイヤードの中で生まれたのだ。ワイヤードの中の伝説、ワイヤードのおとぎ話の主人公――」

 玲音は「嘘――」と拒否する。

「リアル・ワールドの岩倉玲音はそのホログラムに過ぎない。人工リボゾームによるホムンクルス。君の実体などもともと無かったんだよ」

「嘘だよ……」

「嘘の家族、嘘の友達――、そう全部嘘だったんだ」

「嘘だよ、そんなの……」

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 玲音は自分の家を振り返る。

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 涙で滲んで像は歪み、不確かな形になっていく。

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 英利は玲音のすぐ傍らに来て、玲音の片側だけに下げた髪の束を握る。

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「可哀相な玲音。もうひとりぼっち。でも僕がいる。愛している僕がいる。君をこの世界に送ってあげた僕を、君は愛してくれる筈だ――」

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 さて、英利が告げた「玲音の出自」は本当なのだろうか。
 シナリオを書いていた私は、「かもしれない」程度の確度しかないと思っていた。だから英利の主張を裏付ける様な客観的証拠はイメエジでも一切提示しなかった。

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 だが、隆太郎さんも上田Pも、「その可能性が高い」と解釈した様だ。

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 玲音は――、英利の言葉を拒絶する。

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「もう一人のあたしが――」
「もう、一人の君じゃない。一人の玲音なんだ」

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 玲音は突き放してレインの強い言葉で英利に抗う。

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「どっちでもいいよ! そんなの!」

 レインの感情のあまりの凄まじさに、英利は圧される。

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 送電線がぶち切れ、地面にのたうつ。

 

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 玲音は一人ぼっちで、そこに立ち尽くしている――。

 

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 画面設計は岸田隆宏さん。多くのカットがそのまま原画となった。
 そして今回の作画陣。

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 ほんの数秒分だが、私担当の映像製作はこれが最後になった。

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 実写を投入するなど、シナリオでやれる手は尽くしたが、どうしても次話は現場が厳しく、A-Partは総集編にせざるを得ないと上田Pから告げられた為、今話の後半は情報量を圧縮せざるを得なかったのだが、結果として静的な前半とテンポが速い後半というコントラストが作れたし、これで良かったと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

Layer:10 Love - Exposure of "Knights"

 

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 この回はここから展開にドライヴが掛かる。
 実際には掛けざるを得ない事情があったのだが。

 シナリオでは先にここで「ぐるぐる玲音」化するのだが、カタルシス先行の意図だろう、コンテでこうなった。

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 ワイヤードでは一人ではない。ワイヤードなら何でも出来る――。

 玲音に「どうしたいの?」と訊いてくる女声は、特定の誰かではなくワイヤードのユーザの集合体の様なイメエジ。

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 もう一人の自分を作ったのはナイツなの? ナイツって誰なの?

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 ナイツの起源はテンプル騎士団にまで遡る――訳が無い。

 ワイヤードの神などがいるのは、それを崇める者がいるから――

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 玲音の強い憤りが、ワイヤードに閃光となって駆け巡り始める。

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 実はこの前の部分の情景描写のト書きに、再び「(実写加工?)」と記していた。隆太郎さんは、玲音の超越的な力の表現部分で私に作業を指名した。

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 爆発はライブラリからの加工で、奔流の描写はCRTモニタをカメラで録るという無限ループで、極めてアナログな作業にした。

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 ひと気が無いサイベリア。この時期、経営状態が芳しくなかったかもしれない。タロウ達は他に行き場がなく、ミュウミュウがマサユキに珍妙なマウンティングをしているのだが、タロウはそれどころではない。
 

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 ネット・ニュウズでナイツの名簿が次々に暴露されているのだ。

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 名前をつけていなかったナイツ・メンバーだが、個人情報が暴露されるという描写なので名前をここではつけた。エグゼクティヴは増岡拓喜司。私がよく用いる名前。
 ショウちゃんママは真次祥子(漢字は不確定)。
 シナリオでは書いていないので、後になってローマ字表記を考えさせられたのだと思う。

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 増岡は自分の名と顔が晒されている事に頭が真っ白になる。

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 バサバサと鞄に書類と640MBのMO(若い人には見慣れないだろうが、当時の大容量媒体)。

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 そこにカールと林、MIBがずかずかと入ってきて――
「けじめをつけよう、な?」とカールが頸に何らかの薬品をインジェクション。

 薬物は解剖される頃には痕跡が無くなっているだろう筋弛緩剤かもしれない。
 何も知らずにノックしドアを開けたセクレタリー(スカート短すぎ)は、死んでいる増岡を見て――

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 ティピカルなオタク・ナイツは、口の中に電球を突っ込まれ窒息死していた。

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「ねぇ、ママやんないの? 僕が殺っちゃうよ?」

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 ショウちゃんの呼び掛けに、もう祥子は答えられない。

 本ブログではあまり過激なキャプチャ画像は掲載しない方針なので、これ以上は見せないが、世界各国のナイツが不審死を遂げ始める。
 シナリオで「ポンヌフ橋で」などと書いているのはP2事件(イタリアのフリーメーソン系結社が起こした事件)がモデル。

 冷戦時代、スパイのリストが公表されるとこうした惨劇が起こるという事はまま起こったが、概ねは水面下での出来事だった。
 しかし近年、ジョージ・W・ブッシュ政権時、イラクが核開発を密かに再開しているという確証のない情報を根拠にイラク戦争が開戦されるのだが(9.11直後、テロリストはサダム・フセインの援助を受けたと信じていたアメリカ国民は50%近くいた)、遠心分離機用のアルミニウム菅が輸入されたという事だけが根拠であり、アフリカからイエロー・ケーキ(ウラン)を大量購入していたという情報にも何ら根拠が無い――という事を視察報告した元アフリカ国大使と、その妻が実はCIAのスパイ・マスター(世界各国の情報提供者を管理する職務)であるCIA局員である事が、マスコミにリークされるという事件が起こる。

 プレイム事件がそれで、この一見普通の主婦がスパイ・マスターであり、その実名がマスコミで暴露される事によって、中東のみならずアジアなど各国の情報提供者の多くが隠密裏に身柄を拘束され、概ねが処刑された。
 この情報リークは当時の副大統領ディック・チェイニーの補佐官が主導で動き、実際に暴露情報を提供したのはリチャード・アーミテージ(日本には何かと縁がある)だったと自ら認めている。公聴会で偽証をした“スクーター”ルディ・リビーは禁固刑に服したが、今年大統領令で恩赦となった。
 ナイツ・メンバーの処刑は、数年後でも絵空事ではなかったのだ。

 この事件は「フェア・ゲーム」(2010)というナオミ・ワッツショーン・ペン主演の映画になった。

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 ネット・ニュウズは不審死したのが「ナイツ」という秘密組織に属していた――という消息筋の情報を伝えつつ、パンポットで右左に凄まじいフェイズシフティングのノイズと共に沈黙する(これよくオンエア出来たなぁ)

 

 

Layer:10 Love - Father's farewell words

 

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「ただいま」
 ドアを開けて、身体を少し回して入ってくる玲音のアニメーションがこれまたリアル。こういう描写が入るだけで、この映像作品が「生きた人間」を描いていると伝えられる。

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 岩倉家は荒廃している。
 玲音がモラトリアム状態に陥っている間に、既にこの家から家族はいなくなっているのだが、学校から帰れば元に戻っているかもしれない、という無根拠な期待を微かに抱いていた。

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 しかし――、植物は枯れて果てている。

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 美香の部屋には、まだ美香の意識が少し残留している様だ。一瞬ノイズの様に姿を見せる。

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 学校からここまで、ダイアローグ無しのサイレント描写。BGMは隆太郎さんが「ミニマル」というキーワードで指定していたと思う。
 散らかったままの美香の服を畳もうと――

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 人の気配に振り向くと――

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 もういないと思っていた「パパ」=康雄が立っていた。

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 しかし康雄は敬語で玲音に別れの言葉を告げ始める。

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「もう御存知なのでしょう。私達の仕事は終わったんです。
 短い間でしたが、大したお世話も出来ずで――」

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 玲音は絶句する。

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 康雄は玲音がもう、いや、最初から「自由」だったと言う。
 彼(橘総研で、英利の管理者だったのかもしれない)には、別れを言う許可は与えられていないにも関わらず、ここに来たのだ。

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「私はあなたが好きだった。私には、あなたという存在が羨ましかったのかもしれません。じゃ」

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 そう告げると、康雄は背を向け階段を下りて行く。

「待って! あたしを一人にしないで」

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 康雄は振り向かずに答える。

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「一人? 一人じゃないですよ。ワイヤードにコネクトすれば、誰もがあなたを迎えてくれる。あなたはそういう存在だったのです、そもそもあなたは」

 

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 寂寥感に苛まれる玲音。

 

 

Layer:10 Love - Transparent

 

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 登校してくる玲音。

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 前々回、玲音は「更にもう一人の玲音=lain」が取り返しのつかない罪を犯した事から、自分が本当に「なんだって出来る」存在であるというのなら、全校生徒の記憶を消去しようと試みた。しかし、lainが自分の代わりになりすまし、玲音自身は存在していないかの様な事態に悪化してしまった。

 自室で籠もっていた前回、玲音は鬱々と考え続け、記憶の修復を試みていたのだろう。
 これで元通りになった事を期待して教室に恐る恐る来たが――

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 ありすは全く玲音に気づかない。

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 そして席につこうと――、

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 玲音の席がない。

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 立っているのに、玲音は誰にも見えていない。

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「あたしはここにいるよ」

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「こういう事がない様にって気をつけてたのに」

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 観ていて心を痛める描写だが、玲音の今の気持ちは、決して玲音という特殊な存在にしか感じられない情動ではない。こういう気分を自分は勿論、他者に感じさせて欲しくないという気持ちを込めていた。

 

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 すると、気配に振り向く。

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 色を無くしたありすが無機的に言う。

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「そうだよ。玲音はこのリアル・ワールドには必要が無いんだよ」

 

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 勿論これは、玲音のディリュージョンであり、ありすがそんなことを言う筈がないのだが、玲音は再び記憶操作を大失敗したのだ。

 

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 とぼとぼと帰宅していく玲音。

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 影の方が大きい描写――。

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 シナリオではMIBと遭遇していたのだがオミットされる。
 部屋から漏れ出した臓物は増大している。