
「ただいま」
ドアを開けて、身体を少し回して入ってくる玲音のアニメーションがこれまたリアル。こういう描写が入るだけで、この映像作品が「生きた人間」を描いていると伝えられる。

岩倉家は荒廃している。
玲音がモラトリアム状態に陥っている間に、既にこの家から家族はいなくなっているのだが、学校から帰れば元に戻っているかもしれない、という無根拠な期待を微かに抱いていた。

しかし――、植物は枯れて果てている。


美香の部屋には、まだ美香の意識が少し残留している様だ。一瞬ノイズの様に姿を見せる。

学校からここまで、ダイアローグ無しのサイレント描写。BGMは隆太郎さんが「ミニマル」というキーワードで指定していたと思う。
散らかったままの美香の服を畳もうと――

人の気配に振り向くと――

もういないと思っていた「パパ」=康雄が立っていた。

しかし康雄は敬語で玲音に別れの言葉を告げ始める。

「もう御存知なのでしょう。私達の仕事は終わったんです。
短い間でしたが、大したお世話も出来ずで――」

玲音は絶句する。

康雄は玲音がもう、いや、最初から「自由」だったと言う。
彼(橘総研で、英利の管理者だったのかもしれない)には、別れを言う許可は与えられていないにも関わらず、ここに来たのだ。

「私はあなたが好きだった。私には、あなたという存在が羨ましかったのかもしれません。じゃ」

そう告げると、康雄は背を向け階段を下りて行く。
「待って! あたしを一人にしないで」

康雄は振り向かずに答える。


「一人? 一人じゃないですよ。ワイヤードにコネクトすれば、誰もがあなたを迎えてくれる。あなたはそういう存在だったのです、そもそもあなたは」

寂寥感に苛まれる玲音。