この回はここから展開にドライヴが掛かる。
実際には掛けざるを得ない事情があったのだが。
シナリオでは先にここで「ぐるぐる玲音」化するのだが、カタルシス先行の意図だろう、コンテでこうなった。
ワイヤードでは一人ではない。ワイヤードなら何でも出来る――。
玲音に「どうしたいの?」と訊いてくる女声は、特定の誰かではなくワイヤードのユーザの集合体の様なイメエジ。
もう一人の自分を作ったのはナイツなの? ナイツって誰なの?
ナイツの起源はテンプル騎士団にまで遡る――訳が無い。
ワイヤードの神などがいるのは、それを崇める者がいるから――
玲音の強い憤りが、ワイヤードに閃光となって駆け巡り始める。
実はこの前の部分の情景描写のト書きに、再び「(実写加工?)」と記していた。隆太郎さんは、玲音の超越的な力の表現部分で私に作業を指名した。
爆発はライブラリからの加工で、奔流の描写はCRTモニタをカメラで録るという無限ループで、極めてアナログな作業にした。
ひと気が無いサイベリア。この時期、経営状態が芳しくなかったかもしれない。タロウ達は他に行き場がなく、ミュウミュウがマサユキに珍妙なマウンティングをしているのだが、タロウはそれどころではない。
ネット・ニュウズでナイツの名簿が次々に暴露されているのだ。
名前をつけていなかったナイツ・メンバーだが、個人情報が暴露されるという描写なので名前をここではつけた。エグゼクティヴは増岡拓喜司。私がよく用いる名前。
ショウちゃんママは真次祥子(漢字は不確定)。
シナリオでは書いていないので、後になってローマ字表記を考えさせられたのだと思う。
増岡は自分の名と顔が晒されている事に頭が真っ白になる。
バサバサと鞄に書類と640MBのMO(若い人には見慣れないだろうが、当時の大容量媒体)。
そこにカールと林、MIBがずかずかと入ってきて――
「けじめをつけよう、な?」とカールが頸に何らかの薬品をインジェクション。
薬物は解剖される頃には痕跡が無くなっているだろう筋弛緩剤かもしれない。
何も知らずにノックしドアを開けたセクレタリー(スカート短すぎ)は、死んでいる増岡を見て――
ティピカルなオタク・ナイツは、口の中に電球を突っ込まれ窒息死していた。
「ねぇ、ママやんないの? 僕が殺っちゃうよ?」
ショウちゃんの呼び掛けに、もう祥子は答えられない。
本ブログではあまり過激なキャプチャ画像は掲載しない方針なので、これ以上は見せないが、世界各国のナイツが不審死を遂げ始める。
シナリオで「ポンヌフ橋で」などと書いているのはP2事件(イタリアのフリーメーソン系結社が起こした事件)がモデル。
冷戦時代、スパイのリストが公表されるとこうした惨劇が起こるという事はまま起こったが、概ねは水面下での出来事だった。
しかし近年、ジョージ・W・ブッシュ政権時、イラクが核開発を密かに再開しているという確証のない情報を根拠にイラク戦争が開戦されるのだが(9.11直後、テロリストはサダム・フセインの援助を受けたと信じていたアメリカ国民は50%近くいた)、遠心分離機用のアルミニウム菅が輸入されたという事だけが根拠であり、アフリカからイエロー・ケーキ(ウラン)を大量購入していたという情報にも何ら根拠が無い――という事を視察報告した元アフリカ国大使と、その妻が実はCIAのスパイ・マスター(世界各国の情報提供者を管理する職務)であるCIA局員である事が、マスコミにリークされるという事件が起こる。
プレイム事件がそれで、この一見普通の主婦がスパイ・マスターであり、その実名がマスコミで暴露される事によって、中東のみならずアジアなど各国の情報提供者の多くが隠密裏に身柄を拘束され、概ねが処刑された。
この情報リークは当時の副大統領ディック・チェイニーの補佐官が主導で動き、実際に暴露情報を提供したのはリチャード・アーミテージ(日本には何かと縁がある)だったと自ら認めている。公聴会で偽証をした“スクーター”ルディ・リビーは禁固刑に服したが、今年大統領令で恩赦となった。
ナイツ・メンバーの処刑は、数年後でも絵空事ではなかったのだ。
この事件は「フェア・ゲーム」(2010)というナオミ・ワッツとショーン・ペン主演の映画になった。
ネット・ニュウズは不審死したのが「ナイツ」という秘密組織に属していた――という消息筋の情報を伝えつつ、パンポットで右左に凄まじいフェイズシフティングのノイズと共に沈黙する(これよくオンエア出来たなぁ)。