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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:04 Religion - Metamorphosis

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 私がオリジナルで物語を作る場合は、主人公とて変化をしていくのが通例だ。最初に提示したキャラクター観がそのまま維持されないので、キャラクター物として観ようとすると違和感を抱かれる場合が多い。当然、キャラクターだけの事ではなく各話で提示する物語も話法や舞台設定を移行させていく。私の作品が観る人を選んでしまうのは、そういう点にもあるのだとも判っていたが、私自身が「面白い」と感じる物語はそういうものなのだったのだから仕方なかった。

 玲音は初登場時から相当の変化を見せ始めるのが4話目。コンテは中村隆太郎監督、演出は西山明樹彦さん。作画監督/画面設計(レイアウト)は高橋勇治さんが一人で務められ、このエピソードは独特な仕上がりになっている。私も素人なので見当違いな事を書いている懸念があるが、2コマ、カットによっては1コマ(打ち)/秒という、予算があるアクション物でもないとテレビではなかなか見られないカットが多い。

 サブタイトル「宗教」は、黒幕(の第一レイヤー)であるナイツの存在を提示する意図からだが、勿論玲音視点での解釈も可能。

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 いよいよ玲音のNAVIが部屋を埋めんばかりの規模になりつつある。
 扇風機は勿論熱対策(の暫定的措置)。以降、玲音の部屋着がスリップ一枚になるのは、機械の廃熱の為。

 

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「玲音の部屋」は安倍吉俊君の描いたラフが基だが、実際にブックのセルとして描く上ではところともかずさんによるレイアウト監修が必要になってくる。
 既に天井に届くまで積み重なっている裝置が何なのか訊いた事がないのだが、当時はネットのインフラそのものがまだ(電柱・電線に)無い時代であり、電話回線(ISDN)を使わざるを得なかった。あの裝置はそれぞれ個別回線のモデムで、それらを統合してワイヤードに接続していたのではないだろうか。
 こういった機器や通信、電気消費のコストを心配する人がいたが、勿論康雄(の雇用者)が払っている。ハードディスクのシーク音が静寂を効果的に際立たせているが、20年後の今はパーソナル・コンピュータの記憶媒体もソリッド・ステートに置き換えられてきている。

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 プログラミング言語の解説書なのかに首っぴきな玲音を覗き見る康雄は、決してそれが彼自身にとって望ましい事ではないニュアンスで描かれている。

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 美香が「最近玲音おかしい」という事を告げると、「いや、おかしくない」という康雄。勿論美香には理解されないのだが――、母役・美穂(五十嵐麗さん演)が「そうなのね」、と「来る時が来た」というニュアンスで康雄に言う。「そうなんですよ」と答える康雄より美穂の方がパワー・バランスでは上位にいる様だ。しかし、この岩倉家という閉じられた空間での男女としては、もっとエモーショナルな関係でいる描写。

 

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 そして今回のトピックとして扱われる、ネット・ゲームに惑わされ、死んでいく少年のくだり。迫ってくるのが幼い少女の姿をしている理由は後半で明かされる。ゲームをしていた筈が、リアル・ワールドでも追いかけられるという現象を、亡霊かの様に見せている。だが亡霊にしては肉体感がある。

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まだここではネット・ゲームである事を明かしておらず、いよいよロックオンされてしまった時――、幼い子の口から大人の女性の声で「ガッチャ!」と告げられ、少年は命を落とす。

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「I've got you.(見ぃつけた)」の意の「ガッチャ」は、同時視聴会でも多く呟かれた。Twitter文化としては「天空の城ラピュタ」の地上放送の度に一斉に発せられる「バルス!」が発祥なのだろうが、何回も見た作品で、本来笑ったりする場面ではない特定シーンの愉しみ方の原形としては、'70年代の「Rocky Horror Picture Show」上映会からではないかと思う。案外と昔から存在する愉しみ方なのだ。