アバンも何もなく、いきなり玲音がノイズの中に現れる。
「えっと……」
「またあたし判んなくなってきちゃって……」
自身の実在性を全く信頼出来なくなっている玲音。
「あたっして、誰?」
オープニング。
最後のサブタイトルは「自我」
前話リプライズから始まる。英利政美の再肉体化変容を、玲音はありすを救いたい一心で制圧。
しかし、ありすはあまりの恐怖に精神が崩壊。
「ありす!」
ここからは音楽も音響効果も全く無い。
もうありすの目の前に玲音は、「友達」はいない。
玲音は必死にありすの両手を持っていたのだが、ありすに振り切られ、爪が頬を切ってしまう。
ひたすらに脅えるありす。
玲音は――、
パニックが波状的に押し寄せるありす。
「あたしがありすの為にする事って、いつも間違えちゃうね。ホントにあたしって――」
このダイアローグは隆太郎さんが加えた。
玲音はありすを抱き締める。もがこうと一瞬するも、ありすはすぐに脱力。
もう恐怖すらも感じなくなってしまう。
「ありす、ありす、ごめんね、ごめんね」
溶暗。
そしてドーンと言う音と共に表示される「ALL RESET」の文字。
そして「Return」が押される。
Returnで良かったのか、Enterの方が良かったのか……。
デジタル・ビデオ編集機の高速巻き戻しがモンタージュされ――、
全てがノイズに消えて――
長いホワイトアウト。
ここからの展開は、視聴者には軽い失望と共に予想がされていると思っていた。
もーーーん
電線ノイズ。
ハイコントラストで影の中には赤。
一話からのバンク。
岩倉家の玄関が開く。
が、誰も出て来ない。
日常の食卓。
洋食と、
和食。
洋食は美香だけ用。「ごちそうさま」と中途で立ち上がる。
この後、康雄に「まだ途中じゃないか」と窘められ、美穂に「ダイエット中なんですって」という台詞で終わる筈だったのだが、コンテ段階で「言わなくていいって、そんなの」という台詞を短いのだがオフ台詞として足して貰った。
美香は手だけしか描かれていないのだが、間合い的には入りそうなカット割りだったので、隆太郎さんは了解してくれた。
着払いの荷物に関する会話。「また計算機のですか」
もうコンピュータを計算機とは呼ばなくなって久しい。
納豆を混ぜる、糸を切るといったロングの芝居がリアル。
康雄は、使われていない席の事が気になり、美穂に「なぁ」と呼び掛ける。
「なんですか?」
「いや、何でもない」
この家族はこの3人だけだったのだ、最初から。
ワイヤードは日常の風景に溶け込んで――
玲音がいない電車内。
そう。これは玲音が最初からいなかった世界。