いたたまれず玲音は教室を飛び出すが、廊下にいる生徒達、校庭にいる生徒達からも非難の視線を向けられ、逃げ場を失っていく。
「ありす、どこ? どこにいるの?」
ありす自身は教室にいるのだが、玲音は魂と肉体の乖離している状態が長くなっており、ありすの魂に会えると錯誤している。
屈み込む玲音。ガラスにひびが入る。シナリオにはない描写。隆太郎さんは心象風景ではなく、リアル・ワールドで物理的に起きている現象として描いている様に見える。
そして――、ワイヤードでは「もう一人の玲音=lain」が笑みを漏らしている。
体育用具倉庫の前で体育座りしている玲音。
このパン・ショットは背景と背景ブックをトリッキーに動かして擬似的に3Dの様に見せている。これは何度も見返したカット。
拡張された携帯NAVI。アンテナと電源を強化している様だ。
真相を知るのが怖くなっている。しかし、知らねばならない。
玲音は携帯NAVIでフル・アクセス。
と――、玲音の躯から夥しいエネルギーの爆発が起こる。
体育倉庫がファイヤーボールに包まれていく。
シナリオでは「背景が後退していく」という一行だったが、教室に戻る前にシナリオにあった「混乱」という柱の描写をここに持って来て、凄まじい力が発生した表現をするコンテと作画になっている。
その炎の中で、玲音は抑圧されながらも進んでいく。
一体「あたし」がありすに何をしたのかを――
検索。
ここからの展開は、一度別の筋立てでシナリオ会議を通っていたのだが、私自身が納得がいかず、自ら申告して今話のものになった。その「前のヴァージョン」がどういうものだったか、今は全く記憶に残っていない。
プロのシナリオライターとしては、基本的に褒められる行為ではないのだが、同じ事をこの後もう一回だけやった。「神霊狩 -GHOST HOUND-」の第1話がそれだったのだが、この「lain」8話とは事情は全く違う。8話の場合は、玲音、ありす、そして視聴者に最大限のショックを体験させ、トラウマに残さないと終盤のドラマが弱くなるからだった。
「神霊狩 -GHOST HOUND-」1話の場合は、原案の設定を早めに提示しておこうと組んだ1話が、中村隆太郎監督のコンテの生理には合わないと判断した故だった。一度決定稿までいったシナリオの要素を前半のみ使って、舞台とキャラクターをじっくりと紹介するものに改稿した。
そして玲音は、ありすのマンションに辿り着く。