玲音は閉じこもっていた家から出る。
空を見上げ――
「『たった一つの真実』――、神さま……」
すると答える。
「そうさ、僕さ」
この9話でデウスの台詞はただ一つここだけ。
中村隆太郎監督はこの終盤のシナリオの柱を組み替えて、ここで最後のドキュメンタリ・パートが来る様にコンテ修正した。
橘総研の研究員として働いている頃の英利。その傍らに立ち、感心している様に見える人物は――、やはり岩倉康雄だろう。シナリオにはそういう描写はしていないが、隆太郎さんの修正コンテでこう描写された。
橘総研の研究員だった英利政美が、地球を覆うニューラル・ネットワーク仮説を進化させ、人間を無意識下にデヴァイス無しで接続されるというシューマン共鳴ファクターを第7世代のネットワーク・プロトコルへ密かに書き込んでいたのだが、それを上層部に知られて解雇されると、一週間後に英利は轢死体として山手線上で発見された――。
この雨の轢死体発見場面は「下山事件」として知られる、下山国鉄総裁轢断事件を熊井啓監督が映画化した傑作「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」(1981) に準えている。
自殺か他殺か、いずれにせよ英利政美という人間は肉体としては死んだのだ。
だが――、
岩倉家からやや離れた道の向こうに、誰かがいる。
玲音、そちらの方を向くが――、
遠くに立っておりよく判らず小首を傾げる。
徐々に判ってくる、あの「神を騙る男」の姿。
顔――
今話の原画の方々。
画面作成については、ちゃんと角銅さんとしてクレジットされている。
ネットワークの開拓史そのものを物語に組み込んだフィクションは、小説ならば成立するだろうが、1クール物のアニメに普通ならば収まらない。しかしこういう構成ならば入れる事が出来た。
ただ、ドラマについては、過去の一部が明らかになったものの玲音の、そして書いている私自身の「ちょっと待って」という内向きなものになったのは、8話があまりに重く、すぐにそこから次の展開に行きたくなかったからだと、見返してそう思った。
角銅さんとはほぼ同時期に、「ゲゲゲの鬼太郎」4期89話をやった後は、2000年の「デジモンアドベンチャー02」13話の「ダゴモンの海」まで仕事としての共作出来る機会は空く。