再び畳の間。
今度は口だけの人間ではなく、文楽人形の様な玲音の複製人形が居並んで口をガタガタさせている。これも震えと口の動きが揃っていたら興冷めになる訳で、撮影で精緻にタイミングがズラされている。つくづく酷な話数になったと思う。
玲音(レイン)は、自分の預かり知らぬところに別の自分が存在するなんて認めたくない。それは誰だってそうだろう。
するとデウスが、抽象的な姿ではあるがそこに現れる。
メタリックで不定型な浮遊体が絶えずフォルムを変え続ける――という難描写に挑んでいる。常に複雑な光を反射し続けていて、光のエフェクト・アニメーションも加わる。
デウスは言う。玲音はワイヤードに遍在(偏在ではない)してきた存在なのだから、どこにだって居たのだと。ワイヤードの情報は普くシェアされるべきなのだから、君の行為には正当性があるのだと。つまり――、玲音は「神」に近しい存在なのだと。
玲音は「そんな話は信じられない」と叫び――
ガタガタ動く玲音人形を倒していく。
「こんな不出来なデュープをあたし自身だって思えって? ふざけるんじゃないわよ!」 打ち倒していく玲音。
私がディレクター時代、テープのコピーをデュープ(デュプリケーション)と呼んだのだが、全く一般的な用法ではなかった。ちょっと後悔する言葉の選択だった。
首だけの玲音人形。
玲音は、もし自分がデウスが言う通りの存在だとしたら、みんながレインに見られたという情報=記憶だって消去出来る筈。何故ならデウスに近い、ワイヤードに遍在する存在なのだから――と言う。
デウスは、だったらやってみたらいい。君はそれが出来るという。
玲音はそのコマンドを実行する。
気づくと、朝の鴎華学園高校の校庭にいる。
背後から、「玲音ー」と呼ぶありす達の明るい声。
恐る恐る振り向く玲音。コマンドは成功したのか? あの記憶は最初から無かった事に出来たのか――?
と――玲音からもう一人の玲音が抜け出してありす達の方へ走っていく。
茫然と立ち尽くす玲音は、もう一人の玲音がありすに甘えてすり寄る様を見せつけられる。
やめて! あたしはここだよ!
しかし四人は楽しげに、校舎へ向かい、玲音を置き去りにしていく。
突如、lainが玲音の前に顔を突き出す。
「そうだよ。玲音はレイン。あたしはあ・た・し」
他者の記憶は操作出来ても、自分自身と自分が過去に起こしたことの記憶は残っている。
暗い自分の部屋で、「ハロー、NAVI」
浮かぶCopland OSのインターフェイスに手を合わせる。
体温など感じられない。しかし今、玲音を迎えてくれるのはNAVIだけ。
今回のアニメーターの方々。
そして撮影担当。