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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:12 Landscape - lain vs Deus

 

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 シナリオ本を見て貰えば、この場面の描写が如何に簡潔に記されているか判るだろう。
 玲音対英利の描写は、ほんの一瞬、派手な事が起これば良いと思い、ト書きには何も記していない。
 だが中村隆太郎監督がこの場面を簡潔に描く筈が無かった。
 ショウちゃんの場面をオミットしてでも、この場面を膨らませたコンテを描いた。
 そうした場面が成立するという目算無ければ隆太郎さんはコンテに描く筈がない。


 英利は「感覚だって脳の刺激でどうにでもなる。嫌な感覚など拒絶すればいい」と言う。

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 玲音は振り向き「そうなのかな」と答える。
 ありすには英利の姿も声も判らないので、玲音が誰と話しているのか判らない。

「その子が好きなら、どうして繋げてあげない?」

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「判んない」

 ありすは動揺して、「誰と話してるの!?」と訊く。

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 再び心を閉ざした玲音に英利は、「バグっている。いいよ、時間をかけてデバッグしてあげる。さあおいで」と、手を差しのばす。

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 ありす驚愕。

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 英利の手だけがホログラムで現れ、玲音に近づいていく。

 玲音は「判んないの。あなたの事、神さま」

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 ありすは玲音が神さまと話している事を悟る。

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 玲音は英利がした事はワイヤードからデヴァイスを解放する事。電話から始まるネットが無ければ、彼は何も出来なかったという。

 英利は当然だと言う。それらは人間の進化に伴って現れたインフラなのだからと。
 最も進化した人間は、それにより高い機能を持たせる権利があると言う。

 玲音は振り向き、「その権利、誰がくれたの?」

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 英利はその指摘に絶句。

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「地球の固有振動をプロトコル7に組み込む事で、集合的無意識を意識に転送するプログラム――、それ本当にあなたが考えだしたの?」

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「何が言いたい――。まさか――、まさか本当に神がいるなどと!」

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 玲音は立ち上がって冷徹に言う。
「どっちにしろ、肉体を失ったあなたには判らない事」

 ありすに近づいていく玲音に英利は度を失って言う。

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「嘘だ! 僕は万能なんだよ! 僕が君をリアル・ワールドに肉体化させてあげたんだぞ! ワイヤードに遍在していた君に自我を与え、それに――」

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「あたしがそうだとしたら、あなたは?」

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「僕は違う! 僕は――!!」

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 英利は己の万能性を誇示すべく、周辺のアミノ酸有機物を基にその場で肉体を得ようとし始める。

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 最初は人間の姿になりかけるのだが、直ぐにその形状は破綻して異形になっていく。
 玲音は冷徹に宣告する。
「ワイヤードはリアル・ワールドの上位階層じゃない」

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「どういう訳だ!?」

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「あなたは確かにワイヤードでは神さまだった。じゃあ、ワイヤードが出来る前は? あなたはワイヤードが今の様に出来るまで待っていた誰かさんの、代理の神さま」

「代理だ? 嘘だあああ!」

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 英利の器官が二人を襲う。

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 舌なのか腕なのかも判らない何かが二人を捕縛し、持ち上げようとする。

 ありすはあまりの驚天動地の出来事に我を失い泣き叫ぶ。

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 玲音は必死に「ありす!」と叫ぶ。ありすを護らなくてはならない。

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 玲音は英利に強く言う。
「あなたには肉体なんて無意味なんでしょ!?」

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 その玲音の言葉に呼応し――、
 玲音の部屋の拡張されたNAVI周辺機器――既に全ての機能は玲音自身にエミュレータとしてロードされたもの――が蠢き出す。

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 冷却フルード・タンクが破裂し――

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 無数のモデムが飛び出して――

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 パイプや無数のケーブルが生き物の様に脈動し――

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 出来損ないの肉体を得ようとしている英利に向かって凝集していく。

 ありすには耐えられない。

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 機器だった残骸の塊から、まだ腕を伸ばして逃れようとする英利――

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 すると玲音のメインNAVI(橘最新型 康雄が買い与えてくれた)が飛翔し――

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 とどめを刺す。

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 玲音は無感情でそれを見ている。

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 遂に英利の意識をリアライズした肉塊は、NAVIによって物理的に封印される。

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 ありすの神経は完全に限界を越えている――

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 私がこういうイヴェントをここに設けたのは、初期デヴィッド・クローネンバーグ映画の「精神が肉体を変容/損壊させる」というイメエジを見たかったからなのだが、ここまで凄まじいアニメーションで描かれるとは想定していなかった。
 2Dエフェクトでも処理出来るだろうとも。
 だが、サイバーな表現も徹底してセル・アニメーションで描いてきたのが本作だ。こここそアニメーションで描かねばならない、そう隆太郎さんと岸田さんは思われたのだと思う。

 結果、英利のメタモルフォーゼは岸田さんが描かれ、殆ど劇場映画、最盛期のOVAすらも凌ぐ様なカットが描かれて、異様なカタルシスがこの場面で生まれる。

 映画「AKIRA」を連想する人が当時から多かったが、ここで描かれている無からヒトガタ、更にもっとおぞましい肉塊への変貌と、重力に逆らう様な在り様、少女達への襲撃など、本質的には異質だと思う。いずれにせよテレビ・アニメで観られる描写ではない。
 しかも、ずっと気品のある語り口であった速水奨さんが、理性を失い足掻くという演技なのだ。

 玲音は、レインではなく玲音のまま英利に対峙しているのがドラマとしては重要だった。
 肉体としての岩倉玲音をリアル・ワールドに誕生させたのは、英利が言う通りなのかもしれない。しかし、玲音という存在自体は英利がプロトコル7を繋げる以前のワイヤードに、既に遍在していた。
 玲音とは一体どういう存在なのか――。

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 ゲスト・アニメーター、監督、本シリーズの作監を務めた方々など、クレジットは2枚に及ぶ。ところさんも原画を描かれている。

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 こんな総力戦を12話でやってしまい、最終話はどうなるのかと、放送を見て一抹の不安を覚えたことを思い出した。

 

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