ACT.3は再びサイベリアが舞台となる。
玲音はPsycheをどうしたらいいか情報を得る為に、サイベリアへ向かう。
今夜は地味な格好。
家を出る時、黒塗りの車の中から玲音を観察するレーザー光点が二つに増えているのが判る。
誰か訊ける様な人はとクラブ内を歩いている玲音を呼び止めるのが、ハウスDJの「JJ」。
後に「Duvet Cyberia Mix」といったトラックを作るリアルなDJでもあった近田和生さんが演じており、実にリアルな人物像として描かれた。
JJは玲音(彼の認識だと『レイン』になるのだが、この表記の使い分けについてはまた改めて)をよく識っており、レイヴ・パーティのオルガナイザーすら玲音はやった事もあるらしい。
当然ながら玲音自身にそんな記憶は全くない。また、もう1人の玲音はもっと大人びた格好をしているらしい事も教わる。
さてここで玲音が頼るのが、タロウ、マサユキ、ミューミューという3人の小学生。
後の「神霊狩 -GHOST HOUND-」のメインの3人の内、2人が太郎と匡幸(まさゆき)。
元は私の初めて書いた映画「TARO!」のキャラクター名が初出だった。
重ねて言うが、それぞれのキャラクターは作品毎で全く別の存在である。
「lain」には限らないと思うのだが、基本的に大人のドラマが主軸のシリーズで子どもを出す場合には、子役の俳優を呼ぶというのは鶴岡陽太音響監督の方針だった。今の言い方で言えば「イキってる」台詞は、良い子の幼い俳優達、特にタロウには言い難そうで、何度もリテイクさせてしまい申し訳なかったが、いや録音の時は私はとても愉しかった。
玲音はPsycheを見せて「これ知ってる?」と訊ねる。
ハッカー(になりたい)KIDSは即座にそれが噂のものだと看破する。
Psycheも当然また安倍君のデザインなのだが、「な、何この液体みたいなの……?」という質問をした筈だが、忘れてしまった。しかしこれが無いと幾ら多層基板とて、絵的に特徴のあるものにはならないだろうし、やはりこれで正解なのだ。
どうインストールしたらいいか玲音が訊ねると、マサユキが手際よく口頭で方法を教える。「あんた中2?中3?」「2」この会話が個人的にはとても気に入っている。
マサユキのインストラクションの傍らで、タロウは玲音が、「ワイヤードのレイン」だと気づき、じっと観察している。これもダイアローグと平行したサイレントの描写。
「ありがとう」と去ろうとする玲音に、タロウは「今度デートしてよ」と報酬を要求。
焼き餅を焼いたミューミューに罵られ面倒になって去って行く。
この時タロウは、「ワイヤードのレイン」は玲音の言わば「ネット人格」、キャラづけだと認識している。
90年代末のネット・コミュニケーションに於いても、そういうキャラクターの使い分けとそれがもたらす混乱は既に存在していた。
今ならさしずめ「インスタ人格」みたいなものだろう。
しかし、玲音の場合はそんな単純な事情ではなかった。
翌日の午後、美香が帰宅してくると、MIBの2人が岩倉家の前で何事かをしている。
美香が脅えると、MIBはUFOフォークロア的な台詞を言って去って行く。
監視・盗聴的な行為を隠さず、寧ろ気づかせる事によって対象者を追い詰めるオペレーションを「コインテルプロ」という。1960年代~70年代のCIA/FBIが公民権運動家などに対して行っていた。
美香は虚構家族であるにも関わらずその自覚がない。母親に対処を訴えるが、聞き流されるばかり。
玲音の部屋をチラと覗くと――、
ここでのやりとりはシナリオにはなく、隆太郎さんがコンテで足したもの。
「静電気が駄目なんだって」
サイベリアでマサユキは確かにそれを注意していたのだが、それを受けてこういう極めてインパクトのある場面が生まれた( 以前のエントリでも触れた)。
ただならぬ玲音の変化に美香は脅える。
それに被せる様に、玲音が初めて満面の笑みを浮かべて、それまでに言った事がない台詞を言う。「お帰りお姉ちゃん」
ここも、私の想定を越えた隆太郎さん独自な時間の流れ方をさせている。
「プシュケー」と呟く場面といい、ロジカルではない生理的な動機からだと私は思っているのだが、「普通じゃない」表現が見られる。