welcome back to wired

serial experiments lain 20th Anniversary Blog

an omnipresence in wired

 

f:id:yamaki_nyx:20180717143454j:plain

 「lain」の安倍吉俊画集「an omnipresence in wired(遍在) Yoshitosi ABe」(かつてソニー・マガジンズから発売されていた)が復刊ドットコムで復刻版として発売された。
 ゲーム、アニメ双方の為に安倍君が描いた多くの版権彩色イラスト、モノクロスケッチ、おまけマンガ「だめだめレイン」(玲音がシリアル好き設定の元ネタ)「ちびちびレイン」、描き下ろしのカラーコミックと、雑誌AX誌に連載していた「Layers」が完全収録されている。

www.fukkan.com ※復刊ドットコムでの購入者にはポストカードの特典がある。

 

 この「Layers」は、ワイドA4見開きの紙面を使って、安倍君の毎回アプローチが異なるイラストレーションに、私のテキストを組み合わせたもので、アニメのサブタイトルに沿ってはいるものの、ゲーム版に属するコンテクストも含まれ、またアニメ版では描いていない様な独自なものにもなっている。
 数年後に出たワニマガジン版ではオミットされていたが、「Layers」を回顧する対談がこちらには収録されている。何でこういうものになったか成立過程を詳らかにしよう、という意図だったのだが、連載後そう間もない時期だったのに二人とも覚えていない事柄も多く、自分達にとっても謎な部分がある。
 安倍君も私も、アニメの製作と同時進行だったので仕方ない。

 この時に私が書いたテキストは、私自身が手元に残してなかったのでうろ覚えだったのだが、連載のプレヴュウ的なLayer:00は、あくまで安倍君によるイラストがメインでテキストは飾り扱い(いや、連載も基本はずっとそういう扱いなのだけど)。
 プログラムの行の末尾、// 以下に書き加えられたコメントアウトに、意味の在り気な言葉を書き込んだだけだった。

 連載の正規な一回目は、まだアニメが放送される以前の掲載で読者には「何が何やら」の時期。読み返してみると、私達が「serial experiments lain」で何をしようとしているのかについてのマニフェストになっていた。
 書き起こしてみる。

――――

"Weird Tale"--
これから語る事は虚構の枠組みをとっているにも関わらずそこに遍在する事象は現実の何かを象徴せるものでありかつここに言語として刻まれその言葉が敷衍していったその時には真実へ転化しているであろう事を予言しておく。

"Wired Tale"--
事象の一つ一つはそれぞれが自己の実在性を主張しその存在そのものは何に依るものでもなく個別のものとしてそれぞれの居る場所を欲している。
しかしそれもまた恣意的な概念の一つに過ぎずそれぞれは脳内のシナプス同様ロジカルにかつ無秩序に結ばれている事をここで相互の理解の為に確認しておく必要がある。

玲音はレイン。レインはlain
それぞれは異なりそれぞれが同一。
接続する事で始めて人は種としての意識を持つ。
接続する事は人を単なる末尾にあるもの“端末”などではなく中継するものというとして連続性を勝ち得る。
繋げられるという事は続けられるという事に他ならないのである。
それは単に座標軸状の連続性ばかりではなく経時的な連続性もまた同様なのであり、即ちこの接続が意識的に引き起こされた時、死者達が彼らが居るべき場所より甦りこの接続の起点となるべき時間座標にその姿を見せていくに違いない。
接続の起点とは、単に肉体を有している時間だという事がその時に諒解される筈であり、肉体持つ意味自体までも揺らぎ始める。
恐れてはならない、この語りを。
恐れねばならない、玲音を。

接続されている事を認識せよ。
おのれを連続させよ。

――――――

「、」を極力抜いた悪文なのはご容赦願いたいが、シリーズの1話から最終話まで、何を語ろうとしていたのか、抽象的にはもうここで私は文字化していた。

 このLayer:01が、私が先に記した同ポジの玲音の連画が描かれている回。

 徐々に文章量は減っていき(あんまり絵を邪魔しちゃいけないだろうと段々遠慮していった)、Layer:08 RumorsではJポップの歌詞的な散文を書いた。安倍君が描くありすを見られる。
 誰かこの歌詞で歌を作ってくれたら嬉しい(詞としての言葉は足りないので補って欲しい)。


 やはり最大の見せ場はLayer:11 Infornographyだろう。
「目指せケーブル10万本」という命題を(何故か)中原順志氏から与えられてのケーブル地獄。安倍君の描く四方田千砂もここで見られる。
 完成画より、次頁に掲載されている線画の方が圧倒される。


 私個人的な「エゴ」で、マドレーヌのくだりをLayer:13では安倍君にグラフィック・ノヴェル風に描いて貰った。ここでやっと(当時の)私は気が済んだ訳で、安倍君には今尚感謝している。

 

 本ブログを書き始めた頃は「復刊ドットコムにリクエストして」と書いていたのだが、ブログ執筆期間中に発売されたのは嬉しい(尚、オリジナル版の時から私には一銭も入らない約束になっている)