20年前、中学生(ばかりか小学生までも)がハンドヘルドPCを持つのが当たり前になる、と予想してはいなかった。
私が設定を手掛けた作品では、キャラクター名以外にアイテムの呼称を共有しているものがある。
代表的なものが「serial experiments lain」にも登場する「NAVI」。
近未来のコミュニケータ/携帯端末をこう呼ぶ事にしていたが、「lain」では例外的にパーソナル・コンピュータ(一体型デスクトップ、タワー型等)もこの呼称で統一した。
「lain」ではネットワーク世界の事を「Wired」と呼んだが、これは現実とはやや異なる作品世界と印象づける意図があったからだ(これについては改めて詳しく記す)。
「NAVI」の初出は私のアニメ最初期作「アミテージ・ザ・サード」。いちいちコミュニケータを作品毎に名づけるのは(私には)馬鹿馬鹿しい徒労に思えて、以降何か理由がない限りはこの呼称で統一していた。
NAVIの名称、及び概念のモデルは、スカリー時代のApple Computer Inc.が1988年にコンセプトとして発表した「ナレッジ・ナヴィゲータ Knowledge Navigator」だった。
アラン・ケイが1977年に構想した「Dynabook」(後にその理念がPowerBook、更にスレート型PCとして実現する)が、「子どもでも扱える、スケッチブックの様な端末)であったのに対し、Knowledge Navigatorのコンセプトは70年代のSF映画が描く未来的ガジェットという色彩が強いものだった。
YouTubeにこんな動画が上がっていた。
こんなプロモーション映像が作られていた事をさっきYouTubeで検索するまで知らずに驚いた。
2010年代も終わろうとしている現在、このコンセプトは殆ど実現可能となっている(実用的かはまた別な評価ともなるが)。
AIと音声コミュニケーションするデヴァイスはGoogleやAmazonがやっきになって広めようとしているが、いちいち声をを出すというのが億劫な私にはあまり関心がない領域の商品ではある。
「lain」と同じ頃に手掛けていた「ウルトラマンガイア」では、バンダイによる商品化の兼ね合いがあり「XIG NAVI」と特捜チーム名を付加していた。
「ありす In Cyberland」にも当然に様に登場している。
さて「lain」のNAVIは、当初は子ども用の据え置き端末として画面に登場する。
シリーズに登場した、NAVIを筆頭に登場する数々のガジェットは概ねが安倍吉俊君がデザインをしたものだ。シリーズ製作中、雑誌AXのグラフィック・ノヴェル連載もこなしつつ、安倍君は橘総研のロゴというものまで、場当たり的に必要なデザインを黙々と描く事になる。勿論シナリオ会議にも参加していた。
玲音が最初にワイヤードに接続するNAVIの参照モデルは、20th Anniversary Macintosh(開発コードネーム Spartacus)という液晶一体型のプレミアム商品で、マカー(Macユーザを侮蔑的に呼ばれた呼称)だった私は躊躇なく予約して購入した。
しかし本体はまあコンパクトでも、サブウーファを兼ねた巨大電源ユニットがあったり、800x600 Pixel程度という当時としても狭い画面であり、数回起動しただけで埃をかぶり、最初の仕事場移転の際に廃品業者に処分をして貰った。後で強く後悔したのだが後の祭りとはこれだった。