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serial experiments lain 20th Anniversary Blog

Layer:13 Ego - The Final Solution

 

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 アバンも何もなく、いきなり玲音がノイズの中に現れる。
「えっと……」

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「またあたし判んなくなってきちゃって……」

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 自身の実在性を全く信頼出来なくなっている玲音。

「あたっして、誰?」

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 オープニング。

 コンテ・演出:中村隆太郎 作画監督:丸山泰英 関口雅浩

 最後のサブタイトルは「自我」

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 前話リプライズから始まる。英利政美の再肉体化変容を、玲音はありすを救いたい一心で制圧。

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 しかし、ありすはあまりの恐怖に精神が崩壊。

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「ありす!」

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 ここからは音楽も音響効果も全く無い。

 もうありすの目の前に玲音は、「友達」はいない。

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 玲音は必死にありすの両手を持っていたのだが、ありすに振り切られ、爪が頬を切ってしまう。

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 ひたすらに脅えるありす。
 玲音は――、

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 パニックが波状的に押し寄せるありす。
 
「あたしがありすの為にする事って、いつも間違えちゃうね。ホントにあたしって――」
 このダイアローグは隆太郎さんが加えた。

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 玲音はありすを抱き締める。もがこうと一瞬するも、ありすはすぐに脱力。

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 もう恐怖すらも感じなくなってしまう。

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「ありす、ありす、ごめんね、ごめんね」

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 溶暗。

 

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 そしてドーンと言う音と共に表示される「ALL RESET」の文字。

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 そして「Return」が押される。
 Returnで良かったのか、Enterの方が良かったのか……。

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 デジタル・ビデオ編集機の高速巻き戻しがモンタージュされ――、

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 全てがノイズに消えて――

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 長いホワイトアウト

 


 
 ここからの展開は、視聴者には軽い失望と共に予想がされていると思っていた。

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 もーーーん
 電線ノイズ。

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 ハイコントラストで影の中には赤。

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 一話からのバンク。

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 岩倉家の玄関が開く。
 が、誰も出て来ない。

 日常の食卓。
 洋食と、

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 和食。

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 洋食は美香だけ用。「ごちそうさま」と中途で立ち上がる。

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 この後、康雄に「まだ途中じゃないか」と窘められ、美穂に「ダイエット中なんですって」という台詞で終わる筈だったのだが、コンテ段階で「言わなくていいって、そんなの」という台詞を短いのだがオフ台詞として足して貰った。
 美香は手だけしか描かれていないのだが、間合い的には入りそうなカット割りだったので、隆太郎さんは了解してくれた。
 

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 着払いの荷物に関する会話。「また計算機のですか」


 もうコンピュータを計算機とは呼ばなくなって久しい。
 納豆を混ぜる、糸を切るといったロングの芝居がリアル。

 康雄は、使われていない席の事が気になり、美穂に「なぁ」と呼び掛ける。

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「なんですか?」
 

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「いや、何でもない」

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 この家族はこの3人だけだったのだ、最初から。

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 ワイヤードは日常の風景に溶け込んで――

 玲音がいない電車内。

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 そう。これは玲音が最初からいなかった世界。

 

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「lain」のオープニング

 

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 最終話の回顧に入る前に、やはりオープニングについて詳しく触れておかねばなるまい。
 OP曲bôa「Duvet」については本ブログ初期既に記している。
 
 恐らく2話とほぼ同時期にこのオープニングはコンテが描かれ、豪華な作画陣と極めて精緻な編集を経て作られた。
 だからシリーズがどういう展開をし、如何なるエンディングを迎えるのかについて中村隆太郎監督はまだ見通せていない時期に作られている。
 しかし、どういう「終わらせ方」にするかについては、もうこのオープニング演出の時点で隆太郎さんの中には抽象的にではあっても既に見えていたのだろう。

 

 私はこのオープニングを「いいなぁ」とは毎週思いつつ見てはいても、このオープニングが何を表しているのか、積極的に解釈をしようとは思っていなかった。しかし結果的にはこのオープニングに収まる様な物語の閉じ方へと進む事になった。
 この事に気づいたのは本当につい最近、放送20周年でTwitter同時視聴会をしようという、ファンの人達に応えて見返し始めてからだった。

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 2拍目裏からヴォーカルのみで始まるのを受けて、街で佇む玲音の後ろ姿にトラック&ズーム・アップするカットから始まる。

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 原案・企画のproduction 2ndは実質的にueda yasuyukiプロデューサーその人。当時の所属部署名の無理矢理英訳だと思う。

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 何でかメイン・タイトルなのに「serial experiments」の表記がない。

 このオープニングには玲音以外の人間は点描されるモブしか登場しない。鴉が唯一の生き物として描かれる。

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神霊狩 -GHOST HOUND-」のオープニングでも、リアルな鴉のアップがあるのだが(岡真里子さんが嬉々として描かれていた)、隆太郎さんにとって鴉はどういう存在だったのか、とうとう訊く機会が無かったのは本当に無念だ。

 

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 上田Pの元上司、Gencoの真木太郎さんは「アミテージ・ザ・サード」のプロデューサー。
 私はそれ以前「突然!猫の国 バニパルウィット」が最初の真木さんとの仕事だった。

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 飛び立つ鴉の群れを恐れる玲音。

 飛び立っていった先を見上げると――

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 ここまでは周囲の全てに脅えているかの様な玲音像だったのだが――

 異なる表情の玲音が、アナログ・ビデオ・ノイズの中から映り込み始める。

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 赤キャミの玲音は、「ワイヤードのレイン」の元型となる。

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 このオープニングはMV的な性質も色濃く、ところどころで玲音は唄にリップ・シンクしている。


 点描各種。

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 壮年の男性も若い女もいる、パーティー的な場なのだろうか。
 テレビの中の玲音は腕を振り上げ、何やら激しくアジテーションをしている様だ。

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 しばしばはさみ込まれる、モニタ再撮。
 リップ・シンクしている。

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 ショウちゃんの元型となった、ゲーム少年。奥にはエプロンをした母親がいる。
 左右分離式のゲーム・コントローラって、Switch以前にあったのだろうか。
 テレビの中の玲音は、「しーっ」と唇に指を当てているが、少年には見えていない様だ。

 キスを交わす若い男女。

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 シリーズで、度々キス場面があったのも、このカットがあったからだ。
 テレビの中の玲音は極めて不機嫌そうに二人を見ている。

 

 そう、テレビモニタの中には、視聴者には気づかれずとも、いつも玲音がいてこちらを見ている。

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「Duvet」のオープニング・エディットは、1chorus目が終わるとCメロ(間奏的なジャスミンスキャット)に直結し、クライマックスに最短で到達。

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 キャミ玲音のステップはテンポにマッチしている。

 多くの実写、写真素材が背景に用いられていて(いずれにも人間は写っていない)、本作が実写を本編でも導入する伏線的にも見える。

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 物憂げな玲音のアップ。

 

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  哀しい目をして振り向く玲音。

 

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 そして、歩道橋。
 階段下に佇む玲音に接近していくキャメラ

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 踊り場で角度が変わる、強いて言えばステディカム風ショット(歩いて接近していく視点)。

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 顔を上げ、

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 階段を上がり始める玲音。何故ここでカットを分けてディゾルヴ処理したのだろうか。

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 その歩道橋を上がる事が、彼女にとってどういう意味を持っていたのだろう。

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 既に玲音の姿にブラーが掛かって、実体を失いつつあるかの様。


 橋の上で突風に煽られる。

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 キャップが風に飛ばされるが――

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 その時、前を過って羽ばたいていく鴉を見つめる玲音――

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 改めて見直して、オープニングで玲音を描いたカットの中で止め絵はここのみだ。後は全てアニメーションになっている。

 

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 そして、帽子は空中に留まっているが、玲音はポケットに手を突っ込んでそのまま歩いていく。
 ここで監督クレジット。

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 そして提供バック。ワイヤードの中からこちらを見つめていた玲音、哀しそうに首を振って虚空を仰ぐ……。

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 最終回はイレギュラーな入り(冒頭に『プレゼント・デイ』がない)というのが理由なのか、尺調整か、或いは別な監督意図があったのかは判らないが、編集が異なっている。
 監督クレジットは玲音以外がモノクロになった引きで極めて短く入るだけで、歩き去っていく後ろ姿のカットは入っていない。

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 インサートを除外すると、このオープニングでは無人に見える街を独りで玲音は歩き、歩道橋を渡って道の向こう側へ去って行く、ただそれだけの展開。
 人がいない街(鴉はいる)。
 道のこちら側からあちら側へと渡る歩道橋。
 去って行く後ろ姿。
 テレビの中から訴える玲音。

 こうしたフラッシュ・イメエジが、終盤のストーリーと物語の結末を考える私に、極めて強い誘導をしていた。
 更に、このエントリで述べた中村隆太郎監督の、シリーズ序盤のヒロイン像評。
 どんなに無駄な抵抗をしたとしても、「lain」シリーズの物語は自ずとかくある結末を私の中で決定づけられていた。

 OP/EDスタッフ。
 エンディングはところともかずさんの一枚作画。
 12話にも参加された山下明彦さんは、ジブリに行かれる前のこの時期、トライアングル・スタッフの「魔法使いTai!」等にも参加されていた。しかし私が初めて挨拶したのはサンライズの「THEビッグオー/Act.07」で素晴らしいイメージボード(絵コンテのクレジット)を担当された時だった。片山一良監督が「この人天才だから」と言っていた。

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Cyberia Layer_2

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 WASEI "JJ" CHIKADAさんの新譜「Cyberia Layer_2」は多くのゲストとのコラボで、もう完璧ガチなゴリゴリのフロア・サウンドなのだけど、ちょこちょことサンプリングで「lain」の世界観が透けて見えてきて、紛れもなく放映当時、直後の「Cyberia Mix」からシリアルに繋がっている。
「Duvet (ScummV Remix, JJ's "Another”Edit)」の入ったEP「bootleg Mix」(『Layer_2』購入者にもDLCが用意されている)は、その前に入っている「Cyberia Layer_2 JJ's bootleg DJ Mix」が凄い。凄まじい。56分ノンストップのDJ Mix。
 40hz以下を再生出来るシステムで大音量でないと、「クラブサイベリア」で体感出来たサウンドを再生は不可能だが(普通の家庭では絶対に無理)、ちょっと気分を上げて仕事をしたい時には最適なBGMになってくれる。
 そしてまだ一週間も経っていないのに、既に「懐かしさ」すら感じてしまっているあの「クラブサイベリア」の宴の熱気を活き活きと甦らせてくれる。
 リリース情報はWASEI "JJ" CHIKADAさんのアカウントをチェックされたい。

追記

 2018/07/14 0:00より、ウェブサイトにて通販が開始されている。

 


lain」シリーズで、クラブという場を主要舞台の一つにしたのは、本ブログでも記したと思うが、家の自分の部屋、家族と過ごす居間、通学の電車、学校――と言う、閉じたサイクルのルーティンから逸脱した場所が欲しかったからだ。
 だからと言って、中学生のドラマなのに渋谷のクラブ、っていうのはあんまりな飛躍だし、普通の監督やプロデューサーなら「幾らなんでも」と止められたかもしれない。

 当時のネット民というのは、基本的には自室に籠もる性質の人の方が圧倒的に多く、オフ会に積極的に参加する層は限定的だった。
 今でこそクラブ・イヴェントもSNS有りきで告知されるのだろうが、20年前は水と油の関係で、だからこそフィクションとして結びつけた。

 実際に舞台の一つとして設定してみると、現実世界とワイヤード、その両方に同時に存在している玲音が、その中間域としてコミュニケーションをする場としては実に有効な選択であり、サイベリアの場面は短くではあるが当初の想定よりは遙かに多くなった。


 リアルとワイヤード、アニメと現実、その端境がクラブだという意味では、先日20周年記念としてファンの方々が幾多の困難を乗り越えて実現したイヴェントにて、多くのアニメで起きた事の再現――トイレのドア一面に「預言を実行せよ」と朱書され尽くした様(男女トイレをそれぞれシオドアさんとカケラ星さんが10時間かけて書かれたそうだ)や、ハウスミストレスがアクセラを配るといった「2次元と3次元の領域が崩れる」感覚も、まさに20年前のアニメでやろうとしていた思想とまさに通底しており、恐らくあの場で、あの出来事の数々を誰よりも驚愕していたのは私だったのではないか。

 JJというDJのキャラクターも、「玲音(レイン)に敬意を抱き、大人として接してくる人物」として、玲音をより膨らませる事が出来た。
 その声を、近田和生さんという実際にDJとして活動されている方が演じ、後に「Duvet」のクラブ・ミックスを作るのだから、「lain」のリアル世界への音楽面での侵食は、JJが嚆矢だったのだと言えよう。

 

 仲井戸"CHABO"麗市さんの劇伴にも、実はたつのすけさんによるドラムンベースっぽいサウンドのトラックもあったのだが、そこばかりではなくミニマルなサウンドを好む中村隆太郎監督の意向で、多くの楽曲が2nd Unit Musicこと竹本晃さんに毎回発注されていく。クラブ場面の音楽をどうするかという時、隆太郎さんは「ピンク・フロイドみたいな」といった無茶苦茶を言っていた様だ。
 そんな事言われてもなぁと落としどころで作られていったのが「Cyberia Mix」の竹本さんのトラックで発展しており、今や入手困難な限定CD,CD-ROM「Bootleg」にサントラは収録されていた。
 実のところ3rd Unit Musicとも呼べる存在だったのは、音響効果の笠松広司さんで、効果として発注されたのに、タブラのソロ&持続音みたいな、視聴者なら「あーこれこれ」と思うアイコニックなサウンドを提供した。
 後の「神霊狩 -GHOST HOUND-」では、劇伴も含めて笠松さんが担当する。


 さて話を戻すが、「lain」のシリーズに於いてクラブとクラブ・ミュージックは、当初の構想には全くない要素だったにも関わらず、シリーズが終わるまでには、実に重要な要素の一つになっていた。
 9話の「Play Track 44」といったダイアローグは、だから書けたのだった。

 まあしかし、以前にも書いたが、2クールあったらもっとサイベリアの描写も、JJのDJプレイも描けたのに、と詮無い事を思ってしまう。

 だが、JJは今尚バリバリ現役。聴きに行きたい、踊りに行きたいと思えば可能なのだ。
 そして、オフ会もクラブも遠慮したいという、「lain」ファンでの寧ろ主流な人達にも、インディーズのCDとして漏れなく届けられる。

 放送から20年経ったマイナーなアニメ、見た人からも「好き嫌いが分かれるだろう」と必ずや言われるアニメなのに、今尚ムーヴメントが地下水脈として存続していた事には、驚きを禁じ得ない。

 


 あれこれとあって仕事が逼迫して、最終話の回顧どころかキャプも録れずにいたのだが、やっと少し余裕が出来たので、ぼちぼち取り掛かっていく。

 

 

アフターオフ会

 

 クラブサイベリアの翌日、ファン交流「のみ」という趣旨のオフ会をシオドアさんが提唱し、くろぐろさんが幹事役を引き受けて、くらさん、落選組だったペリーさんなどがスタッフを務めて60人以上が恵比寿に集まった。
lain」製作時のPioneerLDCはその近くにあった。ついでに言えば「ありす in Cyberland」の開発元も。

 流石にこれはファン同士の会だからと、シオドアさんに最初に誘われた時は躊躇ったのだけど、クラブサイベリアは怒濤の体験イヴェントではあっても、「会話」をなかなか出来ない場ではあったので(ラウンジだとそういった交流もあったと思う)、行ってみる事にした。
 玲音のドールを作られた方がいたので、私も「では」といにしえのドール(放送後一年後辺りに自作。衣装はノアドロームという人形服ブティック製)を持参したのだが、人形の方はもう帰られていた。

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 流石に強烈な夜だったクラブサイベリアの翌日なので、人形を持って行く以外の何も考えておらず、写真すら撮らなかったので、イヴェントのキー・ヴィジュアル、しおんさんの絵をバックに撮ってみたという。
 当時はジェニーボディで作っていたのだけど、どうも頭身が高すぎたので、アゾンの素体に換えてあった。なのでパジャマはかなーりブカブカ。

 

 

 近田和生さんも来られていて、「Duvet」の新エディット版を作ろうという契機になったのは、私が「すげえ」とTweetした、凄まじいテンポダウンしたエディットのYouTube動画だったと教えて貰って、はぇ~、繋がっているんだなぁとここでも。

 

 #lain20thタグで見慣れた方々とリアルに会うというのはなかなか愉しくて、私は2時間くらいだけだったのだが、延々と話をしていたと思う。

 思春期時代に「lain」を見て救われた、という話を聞かせて貰った時には、心から良かったと思う一方、やっぱり「なんで?」という疑問も拭えないのだけれど、いや、結果そうなのだからオーケーなのだ。

 クラブサイベリアでは「アフターアワーズ」の西尾雄太さんと話せたし、オフ会でも既にマンガ家な方々もいたし、小説を書いていこうという人達もいる。「lain」が好きでプログラマ、SEになった人の例も幾つか見てきたし、そういう触媒になったというだけでも、意味のある作品だったと思えて、スタッフの一人としては嬉しい。


 クラブサイベリアのスタッフ達には認識出来た限り御礼を言ったと思うのだが、入り口近くから全く動けず失礼があったら申し訳ないです。

 

 本当はクラブサイベリアで、ジャスミン・ロジャースのビデオ・メッセージが上映される予定だったのだけど、何故かシオドアさんのところに送られてこなくて、でもその理由は昨晩判明した。
 メンバーを集めて、アコースティック版の「Duvet」を新規に演奏・録画してくれたのだった。
 20年前と全く印象が変わらないジャスミンの姿と、そして歌は沁み入るものがある。

 

 

 

 

一夜だけの幻のクラブが出現した

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 ファンによるファンの為のイヴェント、「クラブサイベリア」が無事、大成功となった。

 メディアの方も来ておられたし、レポ担当の方も撮影担当スタッフもいたので、詳細なレポはいずれ上がると思う。
 当日の午後一開場の様子をTweetで見ていたら、既にフロアは立錐の余地も無さそうという。GoPro HERO6+4Kモニタ+LEDライトで展示ファンアートやDJ/VJの様子を撮ろうと思っていたのだが、到底現場で組み立てるのは不可能そうなので、結構離れたところしか空いていなかった駐車場で組み立て、裸でケージごと持ち込んだ。
 だが、それでも動画収録など到底不可能という入り。

 スタッフ込みでCIRCUS TOKYOのキャパ上限(180)で、フロアでは収容仕切れず地上階のラウンジ(ファンアート展示場)にも人が溢れていた。
 ここで近田和生さんと20年ぶりの再会。
 今回のイヴェントはこの方無しでは成立し得なかったし、声優でDJな人は世界でも近田さんしか(多分)いないのでは。しかも、今回のイヴェントに合わせて急遽インディーズでCD「Cyberia Layer_2」をリリースされ(主催のシオドアさんの仲介で安倍吉俊君がジャケットを描く)、その物販ブースでファンにとてもフレンドリーな対応をされていて有り難いと思ってしまった。
 
 近田さんと挨拶をした後は、もう行き場を失い安倍君とスタッフ控え室になっていた半地階のPA卓裏にて待機するしかなかった。
 でも音は当然ながら最高の状態で聴けていたし、ステージは遠かったので、DJ達の様子はよく見えなかったのだけれど広い視界で見られた。

 埼玉で別作品のイヴェントに出演したその足で駆けつけてくる清水香里さんを待っていたら、いきなり「ぅおつかれー、ぅおつかれー」と言いながら上田Pが入ってきて、一瞬絶句。てっきり仕事で来られないと思っていたのだが、幸か不幸か予定が飛んで、こっちに来てくれたのだった。
 この時点で、トークに参加して貰う段取りは無かったのだけど、これは最強の当事者(原案)として喋って貰うしかない。

 


 清水さんも揃って、さあ安倍君のライヴ・ペインティング&トークの準備――、あ、その前にシオドアさんが「2話のサイベリア少年役」を演じる寸劇があったり(これは盛り上がった)、あちこちで同時多発な出来事があって、全容を全て把握している人は多分誰もいないと思う。
 運営スタッフのアテンドはきっちりした対応で、我々ゲストへの気遣いも素晴らしく、上田Pとしきりに感心していた。

 安倍君の機器の接続が難儀した様で、トーク開始時間が押してしまい、シオドアさんが孤軍奮闘しているのを見かねて、「もうトークだけでも始めよう」とスタッフに告げた辺りで準備も出来た。

 シオドアさん、土方ペチカさんのMCで、安倍君が舞台下手のライヴ・ペインティング・コーナー。清水香里さんと私でのトークが始まったのだが、私は早く上田Pを呼びたくてモジモジしていたかもしれない。
 
 PS版の質問が来たところで、上田Pを呼ぶ。まあ期待通り、ぶっちゃけた話になって、活字になると伝わらない彼の独特なニュアンスが伝わったと思う。
 もの凄い拘りと、ビジネスライクな割り切りと、クリエイター魂を持ったプロデューサーだ。
 PlayStation版の再販というかアーカイブは「誰かやって」。
 マジです。

 清水さんの話でやはり一番印象的だったのは、5話の録音後、帰宅してから気分が悪くなったという。
 5話で酷い目に合うのは美香なのに――と、その時は思わず漏らしたのだけれど、玲音にも群衆の中で佇立しぶつぶつ呟くという異常な場面があった。しかもその台詞はその場で私が書いた、「そもそもよく判らない内容のアニメなのに、なんでここでこんな事言わなきゃいけないのか全然判らない」と思わせる様なダイアローグだった事を、帰り道に思った。
 異常な話法を、それはそれで愉しめるのは、それなりに「普通はこう」という事を知っている層なのであって、製作時、玲音と同年齢だった清水さんには酷な事をさせてしまったのかなぁとも思うのだが、その後のJJとのコラボ・ステージで滅茶苦茶愉しんでいたし、そもそも「lain」に愛着が無ければファン・イヴェントにも来ない。安倍君の展覧会に行って、絵を自腹で買ったりもしない。
 あ、でもライターには恨みはあるのかもしれないが(冗談)。

 トークの中では、「中村隆太郎監督について」の各自コメントのところがハイライトだったと私は思っている。私自身はブログで書いている事もあり、あまり中身の無い話しか出来なかったのだが、上田P、清水さん、安倍君それぞれのコメントは何れも隆太郎さんという人を色んなアスペクトで描写していて、聴いていた人達にも像を結んだのではないだろうか。

 トークは終わり、"JJ"の最後のパフォーマンスが始まるのだが、ここで清水さんにも絡んで貰いたいので、私に台本を書いて欲しいとシオドアさんから依頼があり、二つ返事でOKして、その日中には書き上げた。

 


serial experiments lain」の続編などというものはそもそも有り得ない(完結している)上に、隆太郎さんが亡き今となっては、玲音とJJの台詞を書けるという、脚本家としてこれほど嬉しい依頼は無かった。

 実は最初「Play Track 44」という部分は書いていなかった(というかその発想が無かった)のだけれど、シオドアさんが自分用に作成していたTシャツのロゴを見て、「あ、いかん。そういう台詞があった」とやっと思い出して、翌日2稿目を送ったのだった。

 清水さんも20年振りに玲音を演じられるのは緊張した様だけれど、自前でくまパジャマをゴロゴロに入れわざわざ持って来られて、着てくれたのだから完璧だ。
 
 近田さんは、2nd Unit Music(劇伴第2班)竹本晃さんと共に、シリーズ製作終了後に「Cyberia Mix」というアルバムを作られ、「serial experiments lain」という作品の単に「暗い、難解」というイメエジ払拭にとても大きな貢献をして貰えた。
 だから今回のクラブサイベリアの様なファン運営によるクラブ・イヴェントという、普通に考えて無理な事を、無理を通して仲間を集め、頑張って実行させられたのだと思っている。

 
 清水さんが舞台を捌けて、少し休んでいる間はずっと上田Pと昔話をしていた。ブログでの記述に幾つか誤記があったのでその内訂正エントリを書くつもり。
 中原順志君、もしこれを読んだら上田Pに電話入れて欲しい。


 JJのパフォーマンスが絶頂に向かっている時間帯(フロアはマジに揺れていた)だったが、清水さんを早めに出してあげたかったので、ゲスト陣はここで失礼させて戴いた。


 間違いなく、超手作りイヴェントだったし、スタッフによる準備の大変さも、あの盛況ぶりで報われただろう。
 
 私がちょうど「デジモンテイマーズ」BD Box販促でTwitterをやっていたので、シオドアさんが「lainの20周年で何かやりたいんだけど」と呼び掛けている時から私は認識しており、VJ用の素材を提供しますよと言っていた。その時点ではせいぜい集まっても30人くらいだろうという規模だったのだが、徐々に想定規模が拡大していき、チケットは分割限定で時期をずらして発売されていったのだが(これも興行の今のやり方がまさにそう)、すぐに瞬殺が続き、最終的には抽選販売。
 来られなくて残念だった人も多かったとは思うのだが、普段から20年前に好きだったアニメのTwitter情報なんて、そうそう見出せるものでもないだろうし、これ以上大規模なハコでのイヴェントはリスクが大きくなってしまう。
 イヴェントの配信というのは私も含め、要望が各方面から出ていて、限定的な形ではあったのだが、U-Streamで(あまり宣伝はせず)流す事が出来たので、少しは救済出来たかなと思っている。

 版権物を扱う上では殆ど無理という事が、実現出来た。勿論20年前のものだから、という事はあるのだけれど。
 いや、20年前のアニメで、音楽? 幾ら何でも流行廃りというものが――、でもクラブ・ミュージックのベーシック・トラックは不思議な事に全然色褪せないどころか現役感があり、近田さんがアップデートする――

 何とも不思議な現象だなぁ、と、熱気溢れるフロアの上でぼうっと思っていた。

 予想していたけど、当時中高生という人が半分くらいで、もっと若い人(18歳!の人すら)も集まっている。特にイラスト系クラスタは若い。当然、放送後に知ったクチの人達。

 そういう人達に何がアピールしたのか、正直分析は出来ていないのだけれど、まあユニーク性に於いてだけは絶大な自信はあるし(それが良いかどうかは別な話。基本はやっぱり『暗い・難解・不安感』のアニメなのだから)、これは寧ろ憂うべき事ではあるが、ネットの進化度が20年前の想定よりは遙かに遅かったので、劇中描写が意外と風化しておらず、ネットの持つ魔性と、僅かにはあるかもしれない期待・希望の様なものが、割と維持出来ているという事なのかな、と今時点では考えている。

 ともあれ主催代表のシオドアさんは毎週の様に大阪から東京へ来てミーティングを重ねられ、当日は我々のアテンド、MC進行、総監督と八面六臂での立ち回りでさぞや疲れただろう。私も若い頃(厭々だが)イヴェント仕切りをやった経験があるので判る。予定が押した時のストレスたるや寿命を数週間は縮める。
 サポート、映像出し、音響スタッフ、場内でパフォーマンスを披露しながら適度にブレイクを入れるコスプレ・スタッフ、ひたすらケータリングなどで走り回るスタッフと、あの狭い司令室(PA宅裏)をベースに献身的に動いていた。

 7月7日の「serial experiments lain」放送開始20周年記念イヴェント「クラブサイベリア」は、完璧に成功したイヴェントとして何の事故も起こらず、我々ゲストも、スタッフも、そしてチケットを手に出来た人達もみんなを「達成感」の笑顔で終われた事が何より嬉しかった。

 私も、これまた20年振りくらいに弟・和哉と実写映画でコンビを組んで、その撮影稿をキャストに合わせてリライトする作業が直前まであって、当日行けるのか危機的な瞬間もあったのだけど、前日までの雨が止んで晴れとなった当日の天気もあって、なんか色々と「まさか本当に神がいるなどと!」と脳裏を過る1日だった。

 取り急ぎ、スタッフの皆さん、来場者の皆さん、Twitter実況を見守っていた皆さんに、ゲスト全員の気持ちを込めて御礼を申し上げます。

 本当にありがとう。

 

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 シナリオ本を見て貰えば、この場面の描写が如何に簡潔に記されているか判るだろう。
 玲音対英利の描写は、ほんの一瞬、派手な事が起これば良いと思い、ト書きには何も記していない。
 だが中村隆太郎監督がこの場面を簡潔に描く筈が無かった。
 ショウちゃんの場面をオミットしてでも、この場面を膨らませたコンテを描いた。
 そうした場面が成立するという目算無ければ隆太郎さんはコンテに描く筈がない。


 英利は「感覚だって脳の刺激でどうにでもなる。嫌な感覚など拒絶すればいい」と言う。

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 玲音は振り向き「そうなのかな」と答える。
 ありすには英利の姿も声も判らないので、玲音が誰と話しているのか判らない。

「その子が好きなら、どうして繋げてあげない?」

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「判んない」

 ありすは動揺して、「誰と話してるの!?」と訊く。

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 再び心を閉ざした玲音に英利は、「バグっている。いいよ、時間をかけてデバッグしてあげる。さあおいで」と、手を差しのばす。

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 ありす驚愕。

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 英利の手だけがホログラムで現れ、玲音に近づいていく。

 玲音は「判んないの。あなたの事、神さま」

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 ありすは玲音が神さまと話している事を悟る。

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 玲音は英利がした事はワイヤードからデヴァイスを解放する事。電話から始まるネットが無ければ、彼は何も出来なかったという。

 英利は当然だと言う。それらは人間の進化に伴って現れたインフラなのだからと。
 最も進化した人間は、それにより高い機能を持たせる権利があると言う。

 玲音は振り向き、「その権利、誰がくれたの?」

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 英利はその指摘に絶句。

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「地球の固有振動をプロトコル7に組み込む事で、集合的無意識を意識に転送するプログラム――、それ本当にあなたが考えだしたの?」

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「何が言いたい――。まさか――、まさか本当に神がいるなどと!」

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 玲音は立ち上がって冷徹に言う。
「どっちにしろ、肉体を失ったあなたには判らない事」

 ありすに近づいていく玲音に英利は度を失って言う。

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「嘘だ! 僕は万能なんだよ! 僕が君をリアル・ワールドに肉体化させてあげたんだぞ! ワイヤードに遍在していた君に自我を与え、それに――」

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「あたしがそうだとしたら、あなたは?」

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「僕は違う! 僕は――!!」

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 英利は己の万能性を誇示すべく、周辺のアミノ酸有機物を基にその場で肉体を得ようとし始める。

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 最初は人間の姿になりかけるのだが、直ぐにその形状は破綻して異形になっていく。
 玲音は冷徹に宣告する。
「ワイヤードはリアル・ワールドの上位階層じゃない」

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「どういう訳だ!?」

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「あなたは確かにワイヤードでは神さまだった。じゃあ、ワイヤードが出来る前は? あなたはワイヤードが今の様に出来るまで待っていた誰かさんの、代理の神さま」

「代理だ? 嘘だあああ!」

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 英利の器官が二人を襲う。

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 舌なのか腕なのかも判らない何かが二人を捕縛し、持ち上げようとする。

 ありすはあまりの驚天動地の出来事に我を失い泣き叫ぶ。

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 玲音は必死に「ありす!」と叫ぶ。ありすを護らなくてはならない。

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 玲音は英利に強く言う。
「あなたには肉体なんて無意味なんでしょ!?」

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 その玲音の言葉に呼応し――、
 玲音の部屋の拡張されたNAVI周辺機器――既に全ての機能は玲音自身にエミュレータとしてロードされたもの――が蠢き出す。

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 冷却フルード・タンクが破裂し――

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 無数のモデムが飛び出して――

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 パイプや無数のケーブルが生き物の様に脈動し――

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 出来損ないの肉体を得ようとしている英利に向かって凝集していく。

 ありすには耐えられない。

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 機器だった残骸の塊から、まだ腕を伸ばして逃れようとする英利――

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 すると玲音のメインNAVI(橘最新型 康雄が買い与えてくれた)が飛翔し――

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 とどめを刺す。

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 玲音は無感情でそれを見ている。

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 遂に英利の意識をリアライズした肉塊は、NAVIによって物理的に封印される。

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 ありすの神経は完全に限界を越えている――

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 私がこういうイヴェントをここに設けたのは、初期デヴィッド・クローネンバーグ映画の「精神が肉体を変容/損壊させる」というイメエジを見たかったからなのだが、ここまで凄まじいアニメーションで描かれるとは想定していなかった。
 2Dエフェクトでも処理出来るだろうとも。
 だが、サイバーな表現も徹底してセル・アニメーションで描いてきたのが本作だ。こここそアニメーションで描かねばならない、そう隆太郎さんと岸田さんは思われたのだと思う。

 結果、英利のメタモルフォーゼは岸田さんが描かれ、殆ど劇場映画、最盛期のOVAすらも凌ぐ様なカットが描かれて、異様なカタルシスがこの場面で生まれる。

 映画「AKIRA」を連想する人が当時から多かったが、ここで描かれている無からヒトガタ、更にもっとおぞましい肉塊への変貌と、重力に逆らう様な在り様、少女達への襲撃など、本質的には異質だと思う。いずれにせよテレビ・アニメで観られる描写ではない。
 しかも、ずっと気品のある語り口であった速水奨さんが、理性を失い足掻くという演技なのだ。

 玲音は、レインではなく玲音のまま英利に対峙しているのがドラマとしては重要だった。
 肉体としての岩倉玲音をリアル・ワールドに誕生させたのは、英利が言う通りなのかもしれない。しかし、玲音という存在自体は英利がプロトコル7を繋げる以前のワイヤードに、既に遍在していた。
 玲音とは一体どういう存在なのか――。

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 ゲスト・アニメーター、監督、本シリーズの作監を務めた方々など、クレジットは2枚に及ぶ。ところさんも原画を描かれている。

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 こんな総力戦を12話でやってしまい、最終話はどうなるのかと、放送を見て一抹の不安を覚えたことを思い出した。

 

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Layer:12 Landscape - Friendship or/and Love

 

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 唯一明かりが灯る部屋に近づく。

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 ドアを、明け――

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 中に入ると――

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 部屋中を機器とケーブルが埋め尽くしている事に絶句するありす。
「これが――、玲音の部屋……」

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 その声に、ベッドにいた者が反応する。

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 シナリオでは「ケーブルを着た」と表現していたが、くまを抱いて玲音は起き上がる。 この「ぐるぐる」状態を最初に考えたのは、玲音のアイコンである髪留めの形状からだった。
 もともとゲーム版の玲音は、電波を矢鱈と受信してしまう為に、それを遮断する為に片側の髪を長く伸ばして髪留めをしている設定だったのだが、シリーズではその由来には言及していなかった。
 自らを縛る――という表現をする為に、ケーブルに躯を巻くという描写を考えたのだった。

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 思わず「玲音」と呼び掛けるありす。

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 玲音の意識は朦朧としており、「あ、り、す?」と声を出すのみ。

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「なにを、したの……?」

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「なにも。ただ、見てた、だけ……」

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 シナリオ本注釈で、このダイアローグを演じた清水香里さんの事を称賛している。
 現時点での玲音の立ち位置は、ありすから見るとモンスターに近い。だが清水さんの声が、そうじゃない。元々そうじゃない、という事を何よりも雄弁に語ってくれている。

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 ありすは自分だけ記憶を残した事を強く訊く。

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 辛い記憶を何故自分だけが抱き続けねばならないのか。
 

「そんなに私の事が憎いの?」

 ここで初めて玲音が顔を上げる。

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「こんなの耐えられないよ」と涙を零すありす。

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 玲音、ありすに近づいていく。

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「違うんだよ」

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「あたし、ありすを悲しませたくなかったから……」

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「うそ!」

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「ありすは、大丈夫だったじゃない」


「え?」
「ありすは、あたしが繋げなくても、あたしの友達になってくれた」

「何の事……?」
「ありすだけは、あたしの、友達」

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「繋げるって、何の事?」
「あたしと、みんなと――」

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 耐えられず玲音から離れるありす。


「あたし、ありすが好き」

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「何を言ってるのか判ってるの? 玲音」

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 玲音の主張は
・もともと人間は無意識で繋がっていた。
・あっち(ワイヤード)とこっち(リアル・ワールド)、どっちが本物とかじゃなく、あたしは居た。
・玲音はワイヤードとリアル・ワールドとの境界を崩すプログラムだった。

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 ありすは玲音がプログラムだという話に当然戸惑う。

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 玲音は「ありすだってみんなだってアプリケーションに過ぎない。肉体なんて要らない」と言う。

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 やや茫然と聞いていたありす――、

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 ベッドに膝を乗せて体重を掛ける。生きた肉体の表現。

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 そして手を差し延ばして――

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 玲音の頬に指を触れさせる。

 玲音はされるがまま、唖然としていたが――、

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 ありすを見ると――

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「違うよ」

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「え?」

 ありすは、玲音があまりに抑鬱状態になって自らの肉体に価値などない、と思い込んでいるのだと感じた。だから、人の躯の暖かさを伝えたかった。

 次にありすは玲音の手をとって――、

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 自分の左胸に当てさせ――
「あたしだって、ほら」

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 玲音、どうしたらいいのかも判らず。
 だが――、明らかに暖かいありすの躯に触れる事で、人間らしさを取り戻していく。

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「どき、どき」

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「どき、どき」

 二人が言い合って、笑い合う。

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「どうして? どうしてかな?」

「怖いからだよ。怖いからどきどきしている」

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「だって、ありす笑ってる」
「うん、そうだよね。でも怖いの。ずっと怖かったの。何でかな」
「何でだろ……?」

 そこに割り込む英利の声。
「肉体を失うから怖いのさ」

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 この場面は個人的に思い入れ強くシナリオを書いていたが、ここまでエモーショナルなシーンになるとまでは思わなかった。
 コンテと作画、そして二人の俳優――、全てが素晴らしかった。

 以前Twitterで、「lain」の物語は見方によってはラヴ・ストーリーだと書いた事がある。勿論、ここで玲音がありすに言う「好き」は友達としてのものだ。
 だが、ありすの記憶を残したのは、完全に玲音の思い込みで、「理解して貰える」という誤算だった。玲音に話しかけてくれたありすの記憶を、玲音は奪いたくなかったのだ。
 冒頭の「判っちゃった」が全く間違っていたのだ。

 そして二人だけの空間だった部屋に――、邪魔な存在が介入してくる。