全13話何れにも思い入れはあるが、好きな話数というとやはりこの9話になる。
自ら映像作成に関与したからもそうだが、何より話法として独自性を最も発揮出来た。シリーズとしての物語はまとめに掛かる段階だからこそ、思い切った。
ただ、当初の意図としては、最終話に向けて現場を少しでも息継ぎ出来る様にというものだった。
コンテ:仁賀緑朗(角銅博之) 演出:西山明樹彦 作画監督:関口正浩
アヴァンでは「あなたが信じようが信じまいが、神が存在する」という語り。
この部分の音響効果はこの話数から更にフランジャーの掛かりが強くなってくる。
アヴァンが明けるや否や、いきなり実写映像。しかもロズウェルの空撮。
After Effects Plug-in "CineLook"を目一杯強く掛けている。
映像は実際のロズウェルで、私が構成を担当したUFO番組のイメエジ・カットを原形ないまでに加工したもの。
なんでいきなりロズウェルのUFO墜落の話が始まったのか、視聴者は当惑したに違いない。
と――、電線。いつもの「もーん」というノイズは不安にさせる意図でつけられてきたが、今話に限っては「あ、いつものlainだ」と視聴者を安堵させただろう。
久々のくまパジャマ着用はシナリオでは初めてここで記した。
玲音は「何事もなかった」事にしたいと願っているのだから。
しかし、「リアル・ワールドの特定の記憶」の消去は、自分自身の存在すらも危うくしてしまい、今のところ失敗している。
暗い部屋に、ドアが開いて光が差し込む。誰かが来た気配。
玲音は這いながら移動し、誰が来たのか観る。
「!」
グレイ・タイプ・エイリアンだ。しかも赤と緑の縞セーターを着ている。
岸田さんのデザインはテスター社のロズウェル・エイリアンのプラモデルを参考に描かれていたが、実際の作画はやや独自なアレンジになっている。
ニヤ、と笑った様に見える。
しかしすぐにグレイの姿は見えなくなる。
玲音は膝を抱え、再び抑鬱的になる。
UFOにグレイと、このアニメの作者の正気が疑われる展開。
MJ-12(マジェスティック12とも呼ばれる)文書については、劇中でのアナウンサーの語り通りであり、偽文書だという事は誰もが認めている。
ただ、では何もなかったのかについては、不可知論者である私は留保する。こういったリーク文書は、本当に隠したい情報を嘘に紛れ込ませるというディスインフォメーション(諜報活動)に屡々用いられるからだ。
勿論、「本当に隠したかった事」が円盤墜落だなどと言っている訳ではない。冷戦が始まった時期の出来事だった。
さて、大統領権限すらも超越する様な12人(入れ替えがあったので計13人)の委員会(これがMJ-12)のメンバーとして文書に記されていたのは、いずれも実在であり、もしそんな委員会があったら入っていてもおかしくない人々だ。
国防長官だったジェームズ・フォレスタルは後に謎の自殺を遂げている。
さて科学者の中で名が挙げられているのが、ヴァニヴァー・ブッシュ。
After Effectsで、こういう画像とテキストを動かすやり方は、中原順志君の部屋に安倍君と一緒に行った時に教わった。教わらないと一生作れなかった。
「コネクト・ワイヤード」
玲音のワイヤード・アクセスは、特別なデヴァイスは必要なく、ただインターフェイスの画面を見つめるだけでダイヴ・イン/ジャック・イン出来るというのはこれまでも既に見せているのだが、大抵は玲音の主観で切り替わっていた。ここで初めて意識の移行を客観描写している。
ワイヤードには「ゲルゲ怪人」状のユーザ達。
岸田さんは「超人バロム1」は知らなかったのか、サイズの誇張はしていない。
ともあれ、玲音が知りたい情報に、Yahxx知恵袋の様に適切な回答が出来るユーザはもういないのだ。
そしてヴァニヴァー・ブッシュについてのナレーションが再開。
1919年にMITでアナログ・コンピュータである微分解析機を開発した。
ナレーション通り、MEMEXという「概念構想」を提示した事で、ハイパー・リンクとデータベースという今のWebの在り方、更にユーザ・インターフェイスの原形を生み出した。ただ、彼はそれを実現させるには既に老いていた。
彼のMEMEX構想は、後のテッド・ネルソンやダグラス・エンゲルバートらによって現実的なものへ継がれる。
という事で、このドキュメンタリ・パートは「ワイヤードの歴史」を概説し始めたのだ。